第23話 地獄へと叩き落してやる
「ユキナ……! まさかそんな手を取ってくるとは思わなかったよ」
ふふふっ、まさかこ~んな簡単に引っ掛かってくれるとは思いませんでしたわ。
私は椅子に座りながら、苦しむ大吾さんの姿を楽しんでいる。
あぁ……!
その反抗的な目つき。態度。
小さな小さなプライドのために見栄を張って、グチャグチャに壊れていく姿を見るのがたまらなく楽しみなの……!
「あら、ごめんなさい。でもぉ、これはあなたのためなんですよ? わかってくださいね?」
「はっ、物は言いようだな」
何とでも言いなさい。
結局、泣きわめき、懇願するのはあなたの方なのだから。
「しんどい時はいつでも言ってくださいねぇ? 仕方がありませんから、私が直々に相手をしてあげますからぁ!」
興奮で荒くなる呼吸を隠さずに、目の前の獲物を見つめる。
自己紹介の時から大吾さんは気に入らなかった。
わたしたちと仲良くしたい?
搾り取られるだけの男がいったい何をほざいているんだ……?
苛立ちと、それを上塗りする滑稽な姿に笑いが止まらなかったのを思い出す。
だって、間違いなくあの日に限れば彼と仲良くするつもりのサキュバスなんてクラスにはいなかったのだから。
今回のも初日で食われて終わりでしょう。
そう思って手を出さなかった。
……なのに、彼は今ものうのうと生きている。
そんな男の存在はサキュバス界の改革を目指している私にとっては不愉快でしかなかった。
前々からずっと不思議だった。
私たちサキュバスは快楽を司る魔物。
魔法も使え、体も強く、すべてにおいて人間種の男よりもはるかに優秀。
なのに、そうして私たちからドスケベを懇願しなければならないのか。
男からひれ伏し、交尾をしてください、精を搾り取ってくださいと願うのが当然の帰結でしょう!
だからこそ、私は策を練ることにした。
「この部屋は絶対に外からあけることはできません。そういう魔法をかけています」
密室に閉じ込めて、彼にドスケベしたいと言わせるために必要な条件をそろえていく。
「もちろん食料や飲料もありません。ここにあるのは私たちとドスケベに使う道具たちだけ」
残念ながら頼りになるお仲間も落ちこぼればかり。
「フローラはサキュバスとしての失格印を押された問題児。
パコリーヌはサキュバスなのに一人との愛を求めてドスケベする異端児。
極めつけに代表面しているあの女は無能のあまり親に見捨てられ、妹に立場を奪われた落ちこぼれ……!」
「…………」
「さぁさぁ、まだあなたはサキュバスたちと仲良くしたいと言えますか?」
気持ちが高ぶって、どんどん声が甲高くなっていく。
「この絶対にドスケベをしなければならない状況で」
淫語を口にすれば終わり。
わかっていますよ、私には。
もうすでに限界なのでしょう? 普通ならば一週間もサキュバスに囲まれて平気な方がおかしいのですから。
そんな状態でさらに性欲が爆増してしまえば私を襲うことは間違いなし。
「それでもまだ童貞を貫けると言えますかぁぁぁぁ?」
「――ああ、もちろんさ」
「……はぁ?」
いともあっさりと返された言葉。
私を見据える彼の目はまだ死んでいなかった。
「男に二言はない。俺は必ずみんなと仲良くなって、童貞のまま天獄学園を卒業する」
「……なんですか、それは……」
ムカつくムカつくムカつく……!
バシンと思い切り床を踏みつける。
もしここで彼に暴力を振るってしまえば状況証拠的に私が犯人になってしまう。
だからこそ、苛立ちは沈めなければならない。
ひっひっふー。ひっひっふー。
……こういう時のラマーズ法は効きますね……。心が簡単に落ち着きを取り戻す。
「どうやら大吾さんはまだ勘違いされているみたいですね」
正確に事態を把握していない哀れな彼にもう一度だけ私は説明をしてあげる。
「ここは淫語を言わないと出られない部屋。そして、あなたはエッチな言葉を口にするたびにどんどん体が火照っていき、ドスケベがしたい気持ちになってくる」
私から求めてやることなんて絶対にしてやらない。
サキュバスがどうして人間にへりくだって童貞をもらってやらないといけないのかしら?
「約束してあげましょう。私は絶対にあなたを襲わないわ。だから、安心して淫語を口にしていいんでちゅよ~?」
クラリアのことをママと呼んでいたことを思い出して、煽ってみせる。
「あの面汚したちとの友だちごっこはたのしかったでちゅか~?」
「…………!」
彼はぎゅっとこぶしを握り締めるだけで何も言葉を発さない。
悔しいですよね? 腹が立ちますよね?
でも、あなたは何もできないですよね?
己の無力さに気づいた時、人間は本当にいい顔をする。
「ここは悲鳴も聞こえない。あなたの情けない悲鳴も聞こえないから、安心して泣きわめいてくださいな」
立ち上がって、プルプルと肩を震わせる彼の耳元に口を寄せる。
「あなたが条件をクリアしない限りは外に出られない」
脳へと刻み込みように。
思考を刈り取るように。
「どうしても私に助けてほしかったら……『ユキナ様、みじめな僕の童貞をもらってください~』なんて言ったら考えてあげようかしら」
選択肢を、余裕を奪い取るように囁く。
彼の震えは止まった。やっと諦めて、現実を受け入れたか。
ふふっ、これでもうこいつも終わりだわ。
「……ユキナ。一つ、俺の言葉を聞いてくれないか?」
「なぁに、大吾さぁん? 何でも言って? 情けなく、尊厳なんてない媚びるような声で――」
「お前だけは許さねぇ。地獄へと叩き落してやる」
「――は?」
……はぁ?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
なんとも醜い化け物なのだろうか。
動画を見た時、少しでも欲情を覚えてしまった自分の見る目のなさが恥ずかしい。
俺は出来る限り、みんなと仲良くしたいと考えていた。
だが、そんな俺の中にも越えちゃいけないラインってのがある。
ユキナは一線を飛び越えてみせた。
もう許せる段階はとうに通り過ぎていた。
「お前は俺の友だちをバカにした。そのことを後悔させてやろう」
「後悔? 後悔するのはあなたでしょう? 役立たずばかりとつるんじゃってさぁ!」
「どうやらお前には見る目がないみたいだな、ユキナ。やっぱりクラス委員長なんて器じゃないぜ。その座はクラリアがふさわしい」
「……私よりもあの落ちこぼれの方が優秀だと……? そう言うんですか?」
「ああ。それを証明してみせよう。お前の敗北をもってな」
説明を聞いた時から『淫語を十回以上言わなければ絶対に出れない部屋』から出る方法は思いついていた。
実行しなかったのは彼女を説得しようと思ったから。
だけど、時間の無駄だったみたいだ。
彼女は俺が思っていた以上の悪だった。
悪ならば切り倒そう、俺の相棒で。
そのために反撃ののろしをあげる。
「おち〇ぽぉ!!」
俺は高らかに、強く淫語を叫んだ。
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