第21話 早朝美少女サンド


「うーん……」


 ……重い。


 体の疲労感もあるのだが、それとは別に物理的に重さを感じる。


 クラリアはモデル顔負けのスタイルだけあって体重はとても軽い。


 毎日乗られているので感覚でわかる。


 だったら、この重さは何なんだ……。


「……まだ、寝ていたいのに……」


 寝返りをうつ。


 すると、ふにょんと顔が何か柔らかいものに挟まった。


 なんだ、これ……。こんな枕を敷いて寝たっけ、俺……。


 ああ、でも、気持ちいい……あったかくてふかふかだ。


 顔を押し付ければどこまでも沈んでいくような……。


「……んっ」


「……え?」


 一気に目が覚めた。


 夢だろうか。夢であってくれ。


 自分のほっぺを思い切りつねる。


「……いたい」


 残念ながら、あえぐ声音は間違いなく現実。


 腕の中に納まるおっぱいも、鼻腔をくすぐる甘い香りも、すべて現実。


 俺はパコリーヌを抱きしめながら寝ていた。


「な、なんでだ……!? なんで、パコリーヌがここに……っっつ!?」


 頭に鈍い痛みが走る。


 ズキズキと体の不調を訴えかけるような痛み。


 原因は思い出せないが、とにかくこのままの状態は股間にあまりよろしくない。


 名残惜しさを感じながら、ゆっくりと離れていく。


 立ち上がろうとすると、今度は背中にも何かが抱き着いているのに気づいた。


「……嘘だろ?」


 そっと手を回すと弾力のある小ぶりな柔らかいものにあたる。


 恐る恐る目を動かしたら別室で寝ているはずのフローラが俺を抱き枕にして寝ていた。


 俺が触っていたのはフローラの小さなお尻だったのだ。


「ふにゅっ……」


「うわぁぁぁぁぁ!!」


 フローラの……フローラのお尻を触ってしまった。


 彼女だけではない。


 パコリーヌのおっぱいにも顔をうずめ、あまつさえ存分に堪能してしまった。


 なんてことだ。


 俺は犯してはならない一線を踏み越えたのだ。


「こんな手……こんな手なんて……!」


 主の言うことも聞かない変態め……。お灸をすえねば顔向けができない。


 後から振り返れば、この時の俺は睡眠時間が足りずに気が狂っていたのだろう。


 自身への怒りに身を任せて、腕をテーブルにたたきつけようとした。


「お兄ちゃん、うるさい……」


 だけど、フローラの小さなお怒りのつぶやきで一気に現実に戻ってきた。


「ご、ごめん、フローラ。睡眠の邪魔しちゃって……」


「……フローラ、まだ寝る……」


「ああ、ゆっくりお休み」


 頭をゆっくりと撫でてあげて、ソファへと寝かしつける。


 でも、彼女は俺の袖をぐいぐいと引っ張って眠る素振りを見せない。


「……ん」


「えっ?」


「……お兄ちゃんも、一緒に寝る……」


「うおっ」


 油断していたところを強く引っ張られて再びソファへと沈み込む俺。


 倒れたところをまるで狙っていたかのようにパコリーヌの腕まで身体に絡みつき、前後共に密着してしまう。


 前門の乳、後門の尻。


 パコリーヌに襲われて以来の大ピンチに陥っていた。


「んぅ……みやっち、ダメだよ……そんなとこ……」


「あったか~い、えへへ……」


 二人がもぞもぞと動くたびに俺の股間棒をムクムクと立ち上がろうとする。


 ダ、ダメだ……。目がちかちかする……。


 頭がクラクラと……。


「……これはどういうことなのか、教えてくれないかしら?」


 一気に血の気が冷めた。


 錆びたロボのごとく、ギギギと鈍い動きで首を動かす。


 怒りの形相を浮かべるみんなのクラリアママがいた。


「お……おはよう、クラリア」


「ええ、おはよう。昨晩はとてもお楽しみだったみたいね」


 白い手袋をはめるクラリア。


 ギチギチという音が怖い。


「ち、違うんだ、クラリア。お前はなにか勘違いしている」


「勘違い? 誰だってそうやって誤魔化すのよね」


「いやいや、本当だって!


「御託はいいわ。無罪か有罪か、すべてはあなたの身体が教えてくれるもの」


「ひっ」


 寒気がして、金玉が縮こまった。


「よーし……じゃあ、いくわよ」


「ま、待ってくれ! その勢いはヤバイ! 金玉潰れちゃう!」


「問答無用……!!」


「らめぇぇぇぇぇぇ……!!」




     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「いや~、ごめんね、みやっち! ついついあーしも眠くなっちゃってさ」


「お兄ちゃん……大丈夫?」


「あ、ああ……ちゃんと二つともついてるよ……」


 俺の悲鳴で完全に目を覚ました二人が謝りながらプルプルと震えるを慰めてくれる。


「痛いのは金玉なんだよね? ふーふーしてあげようか?」


 それは絵面が不味すぎるので頭を左右に振って断る。


「いたいいたいのとんでけ~は?」


「もうちょっと俺がバブみ耐性をつけたらお願いするよ……」


 まだその扉は開けていない。


 フローラの気持ちは嬉しいが、彼女に股間を撫でられたら俺は自ら穴を掘って埋まって死ぬ。


「……私は謝らないわよ」


 いつも通り朝食を作っていたクラリアがベーコンやスクランブルエッグ、サラダが盛り付けられたプレートを運んできてくれる。


 もちろん彼女を責めるつもりはなかった。


「わかってくれたらいいんだ……わかってくれたら、それで」


「確かに童貞なのは確認したわ。……ねぇ、一つ疑問があるのだけど」


 釈然としない様子のクラリア。


 相変わらず怪訝な視線を俺へと向ける。


「聖なる魔力が昨日よりもかなり増えてるっぽいけど……どうしてかしら?」


「別にナニもしてないよ」


 フローラとは、だが。


 童貞チェックによるショック療法でぼやけていた記憶がよみがえった。


 俺は深夜、一度パコリーヌが来訪した時に目覚めている。


 ユキナに対抗するために股間棒を使ったとある実験・・・・・を行ったのだ。


 その結果、衝撃に耐えきれなかった俺は気絶してしまい、パコリーヌは心配になってそばで眠ってくれていた。


「ほら? おっぱいに顔うずめたらリラックスできるじゃん?」というのはパコリーヌの弁だ。


 そのおかげできもちよく眠ることができたのだろう。


 頭痛ももうない。


「……あなた、ちゃんとヌいてる?」


 さっきのは嘘。頭痛がぶり返してきたかもしれない。


「安心してくれ。俺は性欲が枯れているわけじゃないからヤることはヤってるさ」


「……そう。なら、いいの」


「ほら、冷めないうちに朝ごはん食べようぜ。今日はいつもより気合を入れておかないといけないからな」


「だね~。ユキナとか何してくるかわからないし」


 俺の作戦を知っているパコリーヌが追随してくれて、話を断ち切った。


 クラリアも食い下がることなく、食事を開始する。


「…………」


 だが、その瞳はずっとこちらを向いていた。




    ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 俺はサキュバスの本気度というのを舐めていたのかもしれない。


 まさかこんな大仕掛けを作ってまで、たった一人の童貞を捕食しようとするなんて思いもしなかった。


「ふふふっ、どうします~、大吾さん?」


 チロリと唇を舐め、恍惚とした表情を浮かべるユキナ。


 ぎゅむっと腕に挟まれて強調された胸を見せつけるポーズをとって、愉快気に追い込まれた俺をあざ笑う。


「絶対に私とドスケベをしないといけないこの状況で……まだきれいごとが言えますか?」


『淫語を口にする度に性欲が倍になる魔法をかけられた』俺は『淫語を十回以上言わなければ絶対に出れない部屋』にユキナと共に閉じ込められた。

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