第19話 淫乱王ドスケベモンスターズ


 ドサリと股上に心地いい重さを感じる。


 瞼をこすれば、クラリアが白い手袋をはめている見慣れた光景だった。


「……おはよう」


「ええ、おはよう」


「最近さ、クラリアの童貞チェックがないと朝が始まらない感じがしてきてるんだよね」


「あら、そう? 確かに動じなくなってきたわね」


「人間は慣れる生き物だからな」


 そう、クラリアに童貞チェックされるだけなら問題なかった。


「それで質問なんだけどさ」


 だけど、今の俺は初めて童貞チェックされたあの日のように動揺している。


「……なんでみんな集まってるの?」


 クラリアの後ろからこちらを覗く二つの影があったから。


「気になるじゃん? 将来的に童貞チェックの資格は取っておいた方が有利だし?」


「ク、クラリアさんが見ておいたほうが良いって……」


 二人とも興味津々といった様子で、俺の股間を凝視している。


 わずかに頬が赤らんでいるのは俺の股間が盛り上がっているからだろう。


「……これは生理現象だ。決して見られて興奮しているわけじゃないからな」


「え~、ほんとかな~」


「こんなに固いのは初めてじゃないかしら?」


「……っ! ……っ!」


 ニヤニヤとからかってくる二人とさらに顔を真っ赤にさせるフローラ。


 ダメだ。性についてサキュバスにマウントは取れない。


 俺は諦めて、力を抜く。


 父さん、母さん、晴夏……すまん! こんな恥ずかしい俺を許してくれ……!


「それじゃあ、行くわよ。せーの」


「んほぉぉぉぉ……!」


 だんだんと慣れていた童貞チェックだったけど、みんなに見られながらするのはちょっとだけ新鮮な気持ちだった。


 自分が天獄学園に染まっているのを自覚して、微妙な気分になった。




     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 あの後、着替えや準備があるのでいったん解散してから登校する流れになった。


「ふぅ……」


 クラリアが鍵を閉めたのを確認してから、小さく一つ息を吐く。


 彼女たちと楽しい時間を過ごすのもいいが、こういった一人の時間も必要だ。


 なぜなら、俺はいま自慰ができない状況にあるから。


 自慰をして、同時に魔力もなくなってしまったら対抗手段を失ってしまう。


 緊急事態も考えておくなら、できる限り魔力は残しておきたい。


 少なくとも来週に体イクっ祭が待ち構えている中で無駄打ちする余裕はなかった。


 つまり、それまで俺はオナ禁である。


 これがなかなか辛い。


 現在の俺は間違いなく過去一の速度で精嚢が働いていて、性欲が溜まっている。


 正直に言ってしまえばムラムラしてしまっている。


 今朝の朝勃ちだってそうだ。


 クラリアが言っていた普段よりもガチガチというのは間違いでもないだろう。


 ズボン越しに感じる彼女のお尻の柔らかさに興奮してしまっていたのだ。


「ぐっ……!」


 鈍い痛みが金玉に走る。


 吐き出せずに溜まれば、いつかは限界が訪れる。


「ふっ……もう少しだけ持ってくれよ、俺の金玉……」


 頬を叩いて気合を入れ直す。


 自室へと向かい、制服へと着替え始めた。




     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 教室に近づくと何やら騒がしい声が聞こえてくる。


「おはよう、クラリア。何かあったのか?」


性闘ハメルよ」


「ハメル?」


 いまいちピンとこない俺は疑問符を浮かべる。


 見れば、教室のど真ん中で腕におもちゃをつけたパコリーヌとフローラがカードゲームで遊んでいた。


「簡単に言えば相手のBP(勃起ポイント)を0にするカードゲームよ。今はパコリーヌが2000BP。フローラが1500BPで、パコリーヌが優勢って感じかしら」


「なるほど」


 特に物騒なことをしているわけではなく、ただ二人が楽しく遊戯をしているというのはわかった。


「あーしのターン! 強欲な肉壺を発動! デッキからカードを2枚引いて、そのまま『ショタ喰いのヒステリア』を召喚するよ!」


「うぅ……速攻性交スピード・ドッキングデッキ……」


「ふふふっ! このターンで決めちゃうからね!」


 ウキウキでカードの効果を詠唱するパコリーヌと困り眉になるフローラ。


 クラリアの言う通り、流れはパコリーヌにあるみたいだ。


「異世界で流行っている遊びか?」


「ええ、そうね。淫乱王ドスケベモンスターズよ。アニメもやっているわ。知らな

 い?」


「手を付けてないな。クラリアもやっているのか?」


「……やってないわ」


「もう誤魔化す必要なくない?」


「……たしなむ程度にはね。一応、デッキは持ち歩いているわ」


「なんで?」


性闘者ハメリストだからよ」


「めちゃくちゃハマってんじゃん」


 どうやらクラリアも熱中してしまうくらいには面白いゲームらしい。


 他に生徒がいないとはいえ、教室のど真ん中でやるのだから相当ポピュラーと見るべきだ。


「『ショタ喰い』の効果! 場にこのカード以外のモンスターがいない場合、手札からショタ属性のモンスターを呼び寄せる! おいで『短パン小僧』!」


「ショタと『ショタ喰い』がそろった。これは来るわね、あのデッキの切り札が」


「そうなのか」


 よくわからないけど熱い展開らしい。


 唯一わかるのは、ネーミングセンスはどのジャンルでも変わらないみたいだ。


「そして、あーしは『ショタ喰いのヒステリア』と『短パン小僧』を性交ドッキング!!」


「……性交ドッキング召喚……!」


 二枚のカードを墓地へと送り、パコリーヌが取り出したのは一枚の白いカード。


「終わりなき欲望! 闇へと身を堕とし、ショタコンの掟を破り給え! 降臨せよ、『ショタにわからせられた雌奴隷・ヒステリア』!!


「わからせられちゃってるじゃん」


 そう言って、パコリーヌがフィールドに置いたのはボールギャグを付けられ、目隠しをされた黒装束の女に馬乗りしているショタが描かれたカード。


 健全な少年たちにはちょっとばかり刺激が強いかもしれないイラストだった。


 間違いなく純粋な子供たちの性癖は歪んでしまうだろう。


 そういう意味では、カードの中でわからせられた『ショタ喰いのヒステリア』も喜んでいるかもしれない。


「『ヒステリア』の効果発動! このカードが召喚に成功した時、相手フィールドのモンスターをすべて破壊! その数×1000ポイント分だけ淫乱力がアップする!」


 さっき見た時、ヒステリアの淫乱力は2000だった。フローラの破壊されたモンスターの数は2体。


 ということは……。


「淫乱力4000……!?」


「淫乱力ってのは?」


「モンスターには淫乱力と感度力があるの。それぞれが攻撃力と守備力だと思えばいいわ」


「なるほど」


「フローラの場にはモンスターがいない。攻撃が通ればパコリーヌの勝ちよ」


 フローラのフィールドはがら空き。


 主人を守るべきモンスターが場に存在しない。


 けれど、俺はそう簡単に終わらないと予感していた。


 一枚だけ伏せられたカードがあったからだ。


「あ、あまい……!」


 待ってましたと言わんばかりに笑ったフローラが手札からカードを腕のおもちゃにたたきつける。


「このカードは相手のショタ属性のモンスターの攻撃宣言時に手札から場に出せる……。『摩擦隊まさつたい剣士・四股琉野しこるの自由じゆう』を特殊デリヘル召喚……!」


「あっ、自由さんだ。『摩擦の性刃』のカードもあるんだ」


「基本的に有名な作品とはコラボレーションしているわ。私が愛用しているのは『覆面パンツライダー1919』のファンデッキね」


 また新しいのが出てきた……。


 一応、確認しておこう。面白いかもしれない。


「くっ……! でも、自由の淫乱力は2000! 攻撃は続行だよ!」


「ま、まだまだ……! 伏せカード発動。『おねショタの主導権をショタに握らせるな』! ショタ属性の淫乱力と感度力が逆転する……!」


「な、なにぃ……!?」


 淫乱度に全振りされたヒステリアは感度力が0。


 ちょうどピッタリでパコリーヌのBPがなくなる。


「いやって、自由さん……! 自慰じい手淫しゅいん一ノ珍いちのちん――鬼頭輪火きとうわっか!!」


「きゃぁぁぁぁぁ!?」


 BPが0になったパコリーヌはその場にへなへなと崩れ落ちる。


 敗北を喫して落ち込む彼女のもとにフローラが手を差し伸べた。


「楽しい性闘ハメルだった……ありがとう、パコリーヌちゃん」


「……あーしも燃えあがれたよ。またしようね、性闘ハメル


「うん……!」


 両者の間にわだかまりはない。


 ただ楽しいひと時を過ごして笑顔になった二人がいる。


「リスペクトの心を忘れない……。いい性闘者ハメリスト精神を見せてもらったわ」


 隣でパチパチと拍手を送るクラリア。


「……よかったな!」


 よくわからない部分もあったが、これも異世界交流の手だと思おう。


 これだけ流行っているならやらない手はないだろう。


 特にフローラは得意そうだ。


 今日の授業が終わったら教えてもらおう。


 みんなからのエッチな襲撃の可能性を頭から消え去っている俺はのんきに放課後の予定を立てながら、席に着いた。

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