第14話 フローラと語り合いたい
「……あなたたち、本当に何なの?」
「えへへ……ごめんね、クラリア。あーし、決めちゃったからさ」
「だから、クラリア。一時停戦と行こう」
「……なに? パコリーヌと仲良くしようと思ったのも、この状況を引き出すため?」
「それは違うし! あーしが自分から言い出したことだから……!」
「甘えている状況なのは否定できないが、決して勘定があったわけじゃない。パコリーヌが俺の童貞を狙う立場のままであろうと、友だちとしてやっていたさ」
「……本当に変な人間。……はぁ、わかったわよ。許す。その要求、受け入れてあげる」
――ということがあった、お昼休み。
俺はパコリーヌ、クラリアと一緒に昼食をとっていた。
というのも、休み時間の間にクラリアVSパコリーヌの形が出来上がり、勝負にならなかったからである。
俺は全力で逃げ、パコリーヌはそれをサポートする。
クラリアは【石化】のほかにも【風花】(謎の風が吹いて服が脱げる)、【草結び】(身体に絡まって動きを封じる。なぜか亀甲縛りになる)を使って、足止めを狙ってきたのだが、どうも【魔法解除】が使えるパコリーヌとは相性が悪いらしい。
そもそも魔力量がパコリーヌとクラリアとでは差があるように感じた。
クラリアの逆鱗に触れそうなので話題に出したりはしないが。
なので、無意味な時間を過ごさないためにも一時停戦という形で、昼食を囲っているわけである。
「えっと……はい、みやっち。これ、今日のお弁当」
まだどこかおっかなびっくりといった感じのパコリーヌ。
机に乗せられた弁当箱にはまた昨日と変わらず美味しそうな定番おかずが詰められていた。
今日のテーマはのり弁らしく、白身フライや筑前煮、磯辺揚げなどのラインナップとなっている。
「きょ、今日は何も入れてないから! 本当だよ! 味噌汁にだって愛液も入れてない!」
慌てて説明しながら、手をブンブンと振って俺の心配事を否定するパコリーヌ。
対して、俺は柔和な笑みを浮かべるように努める。
「パコリーヌ。俺は怒ったりしていないから昨日みたいに普通に接してくれると嬉しい。今日のお弁当だってすごくうまそうだし、ちゃんと全部いただくよ」
「ほ、ほんと?」
コクリと頷き返す。
パコリーヌは大きい胸をホッとなでおろして安堵の息を吐いた。
「じゃんじゃん食べて! ほら、クラリアもたくさん食べないとおっぱい大きくならないよ!」
「余計なお世話。ちゃんと朝にしっかり食べてるからいいのよ」
「でも、あーしの半分もないんじゃない? おっぱい」
「……おっぱいが女の全てじゃなぐっ!?」
「ほら、食べて食べて。あーしも自炊するから自信はあるよ」
元気を取り戻したパコリーヌがクラリアの口におかずを突っ込む。
文句が言いたげな表情をしていたクラリアだったが小さな口をもぐもぐと動かして味わうと、目を丸くさせた。
「……美味しい」
「でしょ?」
してやったりとニンマリした表情を浮かべるパコリーヌ。
クラリアも怒りはおかずと一緒に飲み込んで、自作のサンドイッチをほおばった。
普通の学校の普通の学生たちの昼休みの光景だ。
「そうだ、パコリーヌは『摩擦の
「え? なにそれ?」
「深夜にやっているアニメなんだけど」
「アニメ? 面白いの? 子供だましじゃん」
「
「宮永もたいがい情緒不安定よね」
もう一度後頭部をはたかれた。
おかげで感情がリセットされる。
危ない。厄介オタクになってしまうところだった。
「すまん、興奮してしまった。とにかく面白いからぜひ見てくれ。絶対にハマる」
「アニメにハマるよりあーしをハメてほしいんだけど……オッケー。じゃあ、パコフリで見とくね」
映像関係のサービスまで充実してるのか……。
異世界は導入が早いな……。そして、名前もいつも通りだ。
もはや安心感まで覚える。
「……で? 私と休戦したのはいいけれど、この後はどうするのかしら?」
「まずはフローラと距離を詰めれたらいいなと思ってる。彼女について教えてくれると助かる」
「フローラって授業中もいつもゲームしてるかアニメ見てるもんね~」
「……不良娘か?」
「授業態度は最悪だけど成績はいいのよ」
「寝てるときもあるよ」
「仕方ないわよ。彼女、私たちよりも三つ年下だし。眠たくなる時もあるわ」
「えっ? 同じ年じゃないのか?」
確かに小動物みたいだが、それは性格の話で体は立派な高校生に見えたんだが……。
いや、ちょっと待て。
三つってことは……中一!?
「飛び級よ。それくらいフローラは頭がいいの。エリーチェ領でも有名だったんだから」
どこか自慢気に語るクラリア。
その姿はまるで子供自慢をする母親のようだ。
「「…………」」
「……なにかしら、その眼は」
「いや、なんというか……」
「ママみたいだなぁ~って」
「……今すぐあなたを襲ってママになってあげてもいいのよ……?」
前から思っていたけど斬新な脅し文句だよな、それ。
ふつう逆だと思う。さすがサキュバスの島。
「それでクラリアお母さん」
「ぶち犯すわよ」
いけない。つい面白くなってからかい過ぎた。
眉間にしわが寄って女の子がしてはいけない顔をしている。
「私はママ派だと言ったでしょう? もう忘れたの?」
「そっちなんだ……」
「クラリアママ。フローラと上手く接する方法を教えてくれ」
「あ~、確かにみやっちガタイ良いし、怖がらせちゃうかもね」
パコリーヌの言う通りだ。
俺が中学生の頃、高校生に話しかけられたら多少なりとも怖い思いがあった。
フローラの性格を考えれば、なおさらファーストコンタクトは気を付けなければならない。
「とにかく根気良く接することね。一度や二度逃げられるのは当たり前。それでもあきらめないのがコツよ」
「なるほど。参考になるよ」
「まぁ、あの子が簡単に懐くとは思わないけれど。私でさえ一ヵ月はかかったんだから」
「ああ、ゆっくり焦らずに頑張るさ」
「あっ、来たよ、みやっち!」
トントンとパコリーヌが俺の肩を叩く。
入り口を見やれば、そこにはキョロキョロしながら自らの席へ着くフローラの姿があった。
「……よし、ちょっと行ってくる」
「頑張れ~。ファイトっ」
「…………」
ガッツポーズを作るパコリーヌと手をひらひらと振るクラリア。
それぞれの応援を受けて、ゲームを取り出してピコピコ遊んでいるフローラに話しかける。
「初めまして、フローラ」
「ぴゃいっ!?」
ゲームに集中していて俺に気づいていなかったのか、びくりと跳ね上がるフローラ。
いけない。怖がらせてはいけない。
俺はしゃがんで、目線が彼女と合う姿勢になる。
「驚かせてすまない」
「う、ううん……だ、大丈夫、です……」
「俺は宮永大吾。知っていると思うけど、先日やってきた童貞だ」
「は、はい……転校生さん、ですよね……」
「ああ、仲良くしてくれると嬉しい。実はクラリアから聞いたんだが、フローラは――」
「……っ! あ、あの! 私、尿意が凄いのでお花摘みを! 失礼しましゅ!」
「――『摩擦の
呼び止める暇もなくフローラは教室を出ていく。
……どうやら失敗に終わってしまったらしい。
これは第一印象も悪いかもしれない。
「……ふぅ」
彼の不屈の
「ドンマイ、みやっち。まだまだチャンスあるから」
「そうよ。それよりもあなたは優先するべきことがある」
どういうことだ、と口にするまでもない。
昨日、早退したから出くわさなかった二人がフローラと入れ替わる形で教室に入ってきたからだ。
ハートマークに開いた胸元からまろびでそうなほど大きいおっぱいの持ち主であるユキナ。
幼い精神とアンバランスな肉体が逆に妄想を駆り立てるリミミ。
自己紹介ビデオで好戦的だった二人と目が合った。
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