第11話 深夜アニメって期待せずに見たらハマることあるよね


「……はっ!? パコリーヌ!?」


 目が覚めた俺は起き上がって、周囲を確認する。


 テレビ。ソファ。部屋の構造……ここは男子寮、か……?


「……はっ、そうだ。それよりもパコリーヌはどこに……ん?」


 テーブルの上に置かれた一枚の質素な紙。


 可愛らしい丸文字でどうやら俺が倒れた後の顛末を書いてくれたみたいだ。



『愛しのみやっちへ



 みやっち、起きれたかな? 体調は問題なさそう?


 あの後、帰ってきた保健の先生に事情を説明して診察してもらったんだけど、やっぱり急な魔力の消費に体がついてこれなかったみたい。


 一日安静にしておいたら、元に戻るらしいからゆっくり寮で休んでおいてねっ!


 先生やみんなにはあーしから事情説明しておくので、ご心配なく!


 それでね、また明日ゆっくりお話ししたいな。


 あーしもいろいろとみやっちに謝りたいから……ごめんね、ワガママ言って。


 元気になったら、デートして、愛のあるドスケベしようね♡

 


 ご主チン様のパコリーヌより



 P.S. 童貞は奪ってないから安心してね?』




「……パコリーヌ……」


 倒れている俺を襲わずに寮まで運んでくれた。


 その事実だけで俺の胸には嬉しさが広がる。


 確かにパコリーヌは俺に媚薬を盛って、罠にはめてハメようともした。


 だけど、俺は自分が襲われる事態に巻き込まれるのを必要経費だと考えている。


 虎穴に入らずんば虎子を得ず。


 サキュバスのみんなと仲良くするためには、そういうリスクを負わねばならない。


 彼女の取った行動に怒ったりはしないさ。


 むしろ、パコリーヌから俺に歩み寄ろうとしてくれている姿勢が何よりもうれしかった。


「これは大切に保管しておこう」


 天獄学園での第一歩の証だ。


 宝物として額にでも入れて飾っておくとしよう。


「それにしてもよく寝た」


 外を見れば、もう景色は真っ暗だ。


 置手紙に書いてあった通り、大量の魔力消費で思った以上に体が疲れてしまっていたらしい。


 ソファで寝てしまっていたので、体が硬くなっている。


 グッと背筋を伸ばせば骨が鳴った。


「何時だ……うわ、変な時間に起きてしまったな、これ……」


 ちょうど日付が変わった頃合い。


 今からもう一度寝れる感じもないし、無理に寝ても寝覚めが悪く明日の朝がしんどくなるだけだろう。


 それならばこのまま起きておくのがいちばんか。


「かといって手持無沙汰だしな……」


 途中で抜け出したために教材もないし、まだこの家には娯楽物もおいていない。


 勉強しようにも頭に靄がかかっており、どうも正常に思考が働いていなかった。


 備え付けのもので手早く時間をつぶせるのはリビングに置かれた大きなテレビぐらいだろう。


 選択肢は限られて自然と俺の手はリモコンに伸びる。


 電源を付ければ、朝に見たままだったので『SHKシコシコ・H・協会』の番組が流れ出した。


『は~い! 大きなお友達のみんな~? 夜はディープな大人の体操をしましょっかぁ~?』


 こいつ、いつも体操やってんな。


 もちろん見る気などないので番組表を開いて、違う番組を探す。


 それに『SHKシコシコ・H・協会』のことだ。


 この島の住民はみんな頭サキュバス。


 いつ『受信料代わりに受チン料をいただきに来ました』と訪問しに来るかわからない。


 長く時間をつぶせそうなのが二つ、目に留まった。


 どうやら一挙放送をしていて、ちょうどいい時間まで放送している。


摩擦まさつ性刃せいば』か『ケツむすめプリプリあ~ん♡イィ~♡!』


 うーん、あまり美少女ジャンルの作品には興味がない。


「まだ『摩擦まさつ性刃せいば』の方が楽しめそうだな」


 概要欄に書かれている作品のあらすじを読む。


 サキュバスによって父親が腹上死させられてしまった主人公・雁太郎カリたろうが己のイチモツを鍛えて、同じ志を持つ仲間たちと共に敵を討つのを目指す異世界バトルファンタジー。


 ところどころに淫乱要素が見え隠れしているが、そこに目をつむればまともである。


「まぁ、暇つぶしにはなってくれるか」


 ソファに腰を沈めて、過度な期待も持たずに視聴を開始した。






 チュンチュンと小鳥たちのさえずりが聞こえる。


 朝の到来が告げられると共に『摩擦の性刃』もエンディングを迎えた。


「ふぅ……」


 めっっっっっちゃ面白かった……!!


 視聴前の自分を殴ってやりたい。


 その異常なまでに書き込まれた作画と王道ながらも手に汗握る――_カリ太郎はイチモツを握っていた――展開が俺の童貞心を掴んで離さなかった。


 特に父親が腹上死した瞬間を見たことで気づかないうちにエッチに対してトラウマを抱えていたカリ太郎が克服したシーンは不覚にも泣きそうになってしまった。


「クソっ、続きはないのか……?」


 一週間分の番組表をチェックしていく。


 どうやら一挙放送されていたのは一期だったようで、二期の『摩擦の性刃~無限シコシコ射精編~』はまだ鋭意制作中らしい。


 めちゃくちゃもどかしい。早く続きが見たい。


 その一心に駆られてしまっていた。


「おはよう、宮永――どうしたのかしら、十面相して」


「クラリア!」


「な、なに?」


「『摩擦の性刃』の原作持ってないか!?」


「キモ」


 冷たい言葉と一緒に金玉を握られて、ヒートアップした俺のテンションはまされた。








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