第8話 股間が叫びたがっているんだ

「みやっち、頑張ってね。保健室まであともうちょいだから」


 耳元でパコリーヌに励まされながら、少しずつ廊下を歩いていく。


 腹痛は一向に止む気配がなく、それどころか増している気さえする。


 お腹から下腹部……いや、股間にかけて熱を帯びていた。


 てっきり俺はトイレで用をすませば解決すると思っていた。


 しかし、現実はそうではない。


 これは腹痛ではない。


 痛いのは股間だ。ギチギチとズボンを押し上げて、股間が拘束から解き放たれたいと叫んでいる。


「保健室に着いたよ! もうすぐ楽になれるからね」


 保健室は空いており、中に先生の姿はない。


「はぁっ……はぁっ……」


「ほら、ベッドで横になって」


 パコリーヌがそっと寝かせてくれる。


「息苦しいとかない? ちょっと服緩めるよ?」


 そう言って、彼女は俺のシャツのボタンを外していき、ズボンのベルトを緩める。


 その瞬間、今までこらえていた股間部分が一気に跳ね上がった。


 見事な股間山。きれいな二等辺三角形が形成されている。


 くっ……同級生に勃起を見られるとは……一生の黒歴史……!


「……やば……おっき……」


 顔を真っ赤にしているパコリーヌ。


 くそっ……看病してくれる彼女に対して俺はなんて失礼な行為を……。


 パコリーヌはスンスンと鼻をひくつかせて、股間へと顔を近づけている。


 ……ん?


「パコリーヌ?」


「みやっち、ちょっと静かにしてて。集中してるから」


「あ、はい」


 そうか。彼女はサキュバスだ。


 きっと股間に宿る熱の原因も特定できるのではないだろうか。


 例えばサキュバスに囲まれたことで体が反応してしまっているとか、現代医療では解明できない謎が――


「……えへへ、ごめんね、みやっち」


「――え?」


「やっぱり想像通りの大物だよ~」


 目を輝かせて、俺の股間を見つめるパコリーヌ。


 ジュルリとだらしなくよだれを垂らす彼女のイヤリングが光った。


「【束縛衣ボディ・ロック】!」


「う、腕が……!?」


「捕まえちゃったっ。もう動けないね~」


 両腕が突如現れた白布によってベッドに固定される。


 自由が奪われたのを確認して、パコリーヌは股上に馬乗りになった。


「パ、パコリーヌ? いったい何して」


「そんなの決まってるじゃん」


 ニィと口端を歪ませた彼女はしなだれかかる。


 柔らかな胸が押し付けられて、彼女の髪から香る柑橘系の香りが肺を一杯に埋め尽くす。


「ナニ、するためだよ」


 そう言って、パコリーヌの舌が俺の耳の中へと入ってくる。


 ぬるり、にゅるりとほじくるように舐め回されていく。


「もうね一目見た時からピーンってきちゃった。あ、この子、絶対に大きい……って」


「じゃ、じゃあ、この熱は……」


「そうだよ? お味噌汁に混ぜておいたの。あーしのあ・い・え・きっ」


 彼女の唇から透明な糸が引いていて、たらりと落ちたそれが俺の口へと入る。


 その瞬間、ドクンと心臓が跳ね上がった。


「……っ!?」


「あははっ! サキュバスの体液にはね、媚薬の効果があるんだ。だから、い~っぱい混ぜておいたんだ」


 胸が苦しい。視界がチカチカする。


 パコリーヌの顔さえまともに視認できない。


 意識が薄れゆく中でも彼女に聞きたいことがあった。


「じゃあ、クラリアから助けてくれたのも……?」


「え~、そんなの嘘に決まってんじゃん。あーしがいちばん最初にみやっちを食べるためのさ」


 あっけらかんと言い放つパコリーヌ。


 ケラケラケラケラと笑い声が頭に響く。


「ほんっとみやっちがバカでよかったよ。あーしのこと簡単に信じちゃって」


「……そう、だったのか」


「クラリアに童貞を奪われてたらまだ幸せで終わったかもしれないのにね。あの子はきっと童貞だけ奪って終わらせるつもりだったろうし」


「……パコリーヌの場合はどうなるんだ?」


「えへへ~、どうなると思う?」


 もう一度、彼女はまだ湿った俺の耳へと顔を寄せて一言一句、意識させるように囁く。


「ここがすっからかんになっても、絞りつくしちゃう」


 クラリアの童貞チェックとは違う、完全に弄ぶ手の動き。


 手は金玉だけにとどまらず、そのまま上へと伝っていき、ピンと爪先ではじいた。


「ぐおっ……!?」


「んふふ~。上に乗っただけで、この圧迫感っ……! やばやばやばっ! みやっち、最高だよぉ……」


 グリグリとデカい尻を押し付けて、テンションを昇天させるパコリーヌ。


 だが、彼女の尻の感触で一つ俺にもわかった事実がある。


「パコリーヌ……」


「なに? もうあーしは止められない――」


「ちゃんとパンツ履いてたんだな」


「――そこっ!?」


「濡れるたびにパンツ履き替えてるのか? サキュバスも大変だな」


「やめて! なんかあーしが惨めな気持ちになるからやめて!」


 これ以上は言わせまいと顔を真っ赤にさせた彼女は俺の口を手でふさぐ。


「気分が萎える前に奪っちゃお!」


 胸の前で自分を奮い立たせるようにガッツポーズを決める。


 ふにゅんと大きく形を歪ませるおっぱい。


「安心してよ。絶対に気持ちよくしてあげるから。覚悟、しておいてね」


「覚悟するのはお前だ、パコリーヌ」


「えっ……?」


「童貞をあまり舐めるんじゃない」


 初日から、この技は使いたくなかった。


 童貞チェックの時にクラリアが言っていた言葉。


 それが気になって、寮で俺が一日疲れて寝てしまうくらいに試していた。


「魔法を使えるのは、サキュバスだけじゃないんだぜ?」


 聖なる魔力が溜まった俺の股間が光り輝いた。







◇次回、反撃。サキュバスをわからせろ◇

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