第6話 童貞喪失RTA22秒(参考記録)

 いよいよ今日から童貞デスゲームが開始される。


 クラリアは本日の童貞報告をしに職員室へ向かった。


 学生性活で初めての一人きり。心してかからなければならない。


 勝負が始まるのは一時限目の休み時間から。


 扉を開けると、手鏡を見ながら髪の毛を整えている赤い瞳の少女がいた。


「おはよう、パコリーヌ」


「おはよ~、みやっち!」


 挨拶を返してくれたのは銀髪ギャルのパコリーヌ。


 男を見ただけで股が濡れる以外は朗らかで人当たりもいい少女だ。


『アタシはパコリーヌ! パコパコのパコリーヌってすごい良い名前でしょ?』


 すいません。まだそっちの感性についていけません。


 とんでもない自己紹介だったが、ドスケベが解禁されていない昨日はとてもまともな子だった。


 たくさん話しかけてくれるし、オタクに優しいギャルとは彼女みたいな人物を指すのだろう。


 ちなみに、みやっちというのは俺のあだ名である。


「いよいよ今日からだね~。宮永選手、どういう気持ちでしょうか?」


「めちゃくちゃ緊張してるよ。今日はお手柔らかに頼む」


「え~、どうしよっかな~。あーしはもう準備万端だし? パンツ見る?」


「見ねぇよ」


「あっ、ごめん。もしかして使用済みじゃない方がよかった?」


「そういう問題じゃないから」


「うそうそ、冗談!」


 ケラケラと笑いながらバシバシ肩を叩くパコリーヌ。


 この世界では全く冗談に聞こえないのだが……。


「ちなみになんだけど、過去最速は一時間目の休み時間が始まって22秒らしいよ」


 脱がしてからヤるまで早すぎる。


 どうやって逃げればいいんだ、それ。


「まぁまぁ、安心してよ。よそのクラスの話だし。こいつとか気を付けてたほうが良いよ~。マジやばいから」


 大きな胸がピッタリとくっつくくらい密着するパコリーヌ。


 スマホをタップして、彼女曰く危ないサキュバスたちの写真を見せてくれる。


 ボディタッチが激しいのも彼女の性格だと思う。


 そう。きっとそれだけ他意はないはず。


 信じよう。


 こちらから歩み寄らなければきっと距離は縮まらない。


 そもそも俺が意識『むにゅり♡』しなければ『ぐにゅっ♡』いいだけの話。これくらい突破『ふにゅんっ♡』できるか、ボケぇぇぇぇ……!!


 くそっ、今だけは思春期を作ったことを恨むぞ、神様!


 なぜ人間には性欲が存在するのか。反応するんじゃない、俺の股間棒。


「ほら、わかった?」


「あ、ああ、ありがとう。ちゃんと覚えたよ」


「なら、安心だね! ……あれ? みやっち、お腹痛い? 顔色悪いよ?」


「べ、別に大丈夫だ。気にしないでくれ」


「そっかそっか! ……実はさ、あーし今日みやっちのために弁当作ってきたんだよね。一緒にご飯食べよーよ」


 そう言って、弁当箱が入ったバッグをぶらぶらと揺らすパコリーヌ。


「……サキュバスってみんな家庭的なのか?」


「ん? どーして?」


「クラリアも朝ごはん作ってくれてさ」


「クラリアって結構いいところのお嬢様だからね。そのあたりはしっかりしてるんだと思う。あーしは今日だけ特別! 記念日だし、お祝いしてあげよ~って感じ」


「そういうことならご相伴に預からせてもらう」


「決まりね! よかった~無駄にならなくて。ちょー期待しておいてよ?」


 なんとも楽しみなお昼休みになった。


 できれば、童貞の状態のまま食べたい。切実に。股間濡れ濡れのままは嫌だ。


 昨晩、童貞を守るためにいろいろと調べたおかげで対策・・があるのはわかった。


 できれば、使いたくないけれど。


「そういえば他のみんなはまだなのか?」


 教室を見渡すが元気印のリミミ含め、他のクラスメイトが見当たらない。


 襲うために隠れている気配も感じない。


「サキュバスって朝弱い子多いんだよね~。あーしとかクラリアは結構珍しい方だね、一割くらい? 多分、みんな登校してくるのはお昼くらいかな~」


「えぇ……」


 学生とは……。


 そのあたりは感性が違うのかもしれない。


 とはいえ、ここで行われるのは童貞デスゲームだ。


 それでは他のサキュバスに童貞を先に奪われるのでは……?


「ふふ~ん、みやっちの考えてることはわかるよ。童貞を奪うんじゃないのかって感じでしょ?」


「あ、ああ。その通りだ」


「答えは簡単。一回捕まったら結局みんなに犯されるから一緒なんだよ」


 とても恐ろしい回答だった。


 ますます童貞は渡せないな……。


「ていうか、みやっちがなんでショック受けてんのさ。逆に嬉しいんじゃないの?」


「そんなことないさ。もっとみんなと話したかったんだけど……」


「……ふ~ん」


 ずっとニコニコと笑顔を浮かべていたパコリーヌの目が一瞬だけ鋭くなる。


 だけど、俺の見間違いかと疑ってしまうくらいに短い間だけで。


 次にはまた満面の笑顔を咲かせていた。


「まぁ、そんな寂しがらないでさっ! 代わりにあーしがいっぱい絡んであげるじゃん?」


「ははっ、ありがとうな、パコリーヌ」


「やば……イケメン過ぎ。また濡れてきた」


「今すぐ着替えてこい」


「大丈夫っ。ノーパンっ」


「どこにも安心できる要素ないけど!?」


 騒々しくも楽しい、これなら平穏に学生性活を過ごせるんじゃないかと希望を持たせるような朝の一幕だった。


 教室の床は濡れていた。

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