第3話 桃色ツインテールお嬢様

 サキュバス。


 性行為を通じて男性の精を奪う存在。


 真には信じがたい話だが、もうその真偽を疑う段階は終わっている。


 事実として呑み込んで消化していく方が圧倒的に有意義だ。


 それに彼女たちをサキュバスとするなら、この童貞デスゲームにも納得がいく。ただの一般人が童貞を襲うなど考えにくかったからな。


「一つ質問なのですが」


「なんでしょうか」


「霧島さんもサキュバスなんですか?」


 彼女はサキュバスたちの通う天獄学園の学園長。


 安庵島で暮らす女性の一人というわけだ。


「ふふっ……どう思われますか?」


 今まで無表情だった霧島さんがうっすらと微笑み、自分の胸を持ち上げて前かがみのポーズをとってみせる。


 スーツの上からでも柔らかそうな胸が強調されて、大人の女性の色気を感じた。


 しかし、先ほどユキナを見た時のような体の熱は回ってこない。


 つまりはそういうことなのだろう。


「わかりました。大丈夫なので、その体勢はやめてください」


「あら、残念です。私はあくまでサキュバスの皆さんとやり取りをする交渉役とお考え下さい」


 少々、テレがあったのか頬がほんのり赤い。


 ゴホンと咳払いをした彼女は一枚の黒布を取り出した。


「そろそろ港に到着します。宮永様には申し訳ありませんが、安庵島は秘匿の地。目隠しをしていただきます」


 抵抗する意味もない。


 素直に受け入れて、霧島さんに手を引かれながら船へと乗り込む。


 それからしばらく俺は真っ暗な視界のまま船に揺られ続けた。


 学園長の霧島さんも同行しているので、疑問に思った事項を全て質問していく。


「自慰は大丈夫ですよね?」


「問題ありません。好きなだけしてください」


「どんな方法で童貞かどうかを確認するんですか?」


「安心してください。その道のプロを用意しております。彼女らにかかれば嘘をついても容易にバレるでしょう」


「なるほど」


 いや、なるほどじゃないが無理やり自分を納得させる。


 童貞確認のプロってなんだよ。そんな資格取る人いるの?


 しかも、彼女らって言ってた。


 絶対変態じゃん。


 この学園、変態しかいなくない? 大丈夫か?


「緊張されていますか?」


「はい。変態と対面するのは初めてなので」


「……立場上、難しいとは思いますが……彼女たちとは仲良くしてくださると嬉しいです。確かにみなさん男を見たら頭の中で妄想プレイを始めてしまう人たちですが」


 ド変態だ。


「根は悪くない子なので。学園長として接してきた私が保証します」


 その言葉には確かに霧島さんの感情が載っている。


 ……先達者のアドバイスだ。しかと胸に刻んでおこう。


「もとよりそのつもりです。自分は誘惑に耐えながら、孤独で生活できるほどメンタルは強くありませんので」


「……! ふふっ、そうですか」


「ドスケベ行為を避けながら学園生活を楽しませてもらおうと思います」


「ええ、それがいいでしょう。みなさん、きっと喜んでくださいますよ」


 相手は性行為が大好きなサキュバス。


 確かに種族は違うのかもしれないが、こうやって交流できているからには仲良くしたい。


 紛れもない本心である。


「さぁ、着きました。――ようこそ、安庵島へ」


 ハラリと目隠しが外されて、視界に飛び込んできたのは桜が満開に花開いた島。


 花びらがひらひらと舞い落ちて、地面まで桃色で埋まっている。


 とても幻想的な景色で目を奪われる。


 俺の意識を現実へと引き戻したのは、遠くから聞こえた怒声だった。


「あー! やっと見つけたわよ、霧島!」


 ビクリと肩を震わせ、声がした方へ目をやる。


 桜に劣らない明るい桃色髪のツインテールな女の子がこちらへと近づいてきた。


「ちょっと遅くないかしら!? この私を待たせるなんてどういうつもり!?」


 怒り心頭といった感じで腕を組み、霧島さんをにらみつける少女。


 こうも最初から怒鳴っている姿を見せられると、どうも悪い印象を抱きそうになる。


「すみません。少々機体の方に故障がありまして」


「なら、いいわ! 許す!」


 あっ、仲良くなれそう。不安はすぐに吹きとんだ。


「それで? こっちのが噂の童貞くんってわけ?」


「はい。すでにクラリアさんたちについても説明してあります」


「あら、そうなの。……ふ~ん? なかなか立派じゃない?」


 ジロジロと上から下まで視線は移動し……違うわ。股間で止まってるわ。


 かなり食い入るように見られている。


 このままジッと観察されるのも恥ずかしいので、声をかけることにした。


「本日から世話になる宮永大吾だ。よろしく頼む」


 仲良くなるには、まずこちらから歩み寄る。


 童貞を譲る気はないが、敵対するつもりはないと手を差し出す。


 彼女はそれを一瞥して、また俺の股間を見て、ガッチリと手を握り返してくれた。


「私は天獄学園の1年A組所属、クラリア。仲良くしてあげてもよくってよ、人間!」


 なんとも面白い子だがちゃんと握手に応じてくれる辺り、やはり良い人なのだろう。


 喋り方からして良家のお嬢様なのかもしれない。


「さて、挨拶も済んだことだしさっさと始めるわよ」


「え、なにを?」


「ちょっと霧島!? なにも教えてないわけ?」


「すみません。先に学園でのルールについて事細かに説明をしていました」


「そっちの方が重要ね! 許す!」 


 クラリアは小さな胸を張って、自分の襟に付いた星形のバッジを指さす。


「しょうがないから、私直々に教えてあげる」


 キラリと輝くそれの中央には『警』という文字が刻まれている。


「私は童貞警察! これから毎日あんたが童貞か確認してあげるから、感謝しなさい!!」


 まさかのクラスメイトに童貞確認の変態プロがいた。






 ◇ 次回、入学。クラスメイトたちとご対面。 ◇

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