先輩が全裸で家にやってきた理由

「せ、先輩! 丸裸じゃないですか!!」

「えへへ……」

「えへへじゃないですって! それはマズイですよ!!」


 さすがに直視できないチキンな俺は、目を逸らした。無理だろ、美少女の裸を見るとかさ。しかも現役アイドルだぞ。何やってんのー!


「気に入ってもらえたかな」

「そりゃ裸のアイドルとか嬉しすぎますけど、ていうか、これ何かのドッキリ? ホラー? 美人局!?」


「違うよ、全部ハズレ。わたしをプレゼントしに来たの」



 あー…、なんだろう。

 和泉先輩って、やっぱり頭のネジが外れているなあ……ってそうじゃない。これはいくらなんでも大事件だ。まず他人に見られたら俺が疑われる。



 一刻も早く服を着させないと……。



 仕方ないので俺は今着ているシャツを脱ぎ、先輩に渡した。



「これ着て下さい、お願いですからぁぁ(←半泣きな俺)」

「そうだよね、藤宮くんが捕まっちゃうもんね」



 多分、先輩も捕まりますけどね。

 まあ、真っ先に俺がいろんな法律で罪を重ねるだろう。一生、娑婆しゃばを味わえない程の重罪になってしまう!


 気が気でない状況に陥っていると、先輩はやっとシャツを着てくれた。しかし、このまま追い出すのも、まだマズイ。



「し、仕方ないですね。俺の部屋へ」



 先輩の右腕を掴み、家へ戻る。

 うわぁ、先輩の腕……細いなぁ。



 ◆



 シャツだけの先輩を上がらせ、俺の部屋に連行。ベッドの上に座らせた。……こうして見ると、俺と先輩すごい状況だな。


「先輩、下着は?」

「持ってないよ。全部、家に置いてきちゃった」

「あぁ……分かりました。幸い、俺には義理の妹がいるんです。妹のとサイズが合うか分かりませんけど、落ち着いたら聞いてみます」


「へぇ、藤宮くんって妹さんいるんだ。しかも義理?」

「ええ、その昔……両親が離婚しましてね」

「そっか、ごめんね。変な事聞いて」

「いえ、いいですよ。それより俺も聞いて良いです?」

「うん」


 先輩はルビーのような赤い瞳を俺に向けた。……やべ、それだけで一目惚れしそう。さすがアイドル。補正が強すぎる。全てが整っている先輩に欠点など無かった。……いや、あるとしたら、おかしな頭くらいか。



「どうして俺にプレゼントを贈ってくるんです? 俺はあのイケメンの『藤谷』ではないですよ。兄弟でもなければ赤の他人なんです。いい加減に勘違いは止めて下さい」


「ううん、勘違いじゃないよ」

「……へ」


「わたしね、一ヶ月ずっとプレゼントを送り続けて分かったの」



 少し視線を落とし、先輩は僅かに頬を紅潮させた。目も潤んでいるし……なんでそんな告白するみたいな雰囲気なの!



「何が分かったんです?」

「……わたし、藤宮 啓くんが好きなんだって……」


「藤谷 圭ではなく……俺を?」


「…………うん。無視され続けてたら何だかそれが許せなくて……でも、余計に気になっちゃって……どうしても振り向かせたくなっちゃったの……。もう今は心臓がどうかなりそうなくらいドキドキしているし、恋しちゃってる」



 だから先輩は全裸で自分を贈ったという。……マジかよ。いくらなんで、ぶっとびすぎだろ!!



「まさか全裸で……いやシャツは着ているから半裸で告白されるとはね。先輩、アイドルのくせにヘンタイなんですか」


「うぅ……」



 そんな涙目になられても。

 泣きたいのは俺だよ?



「これからどうするんです?」

「藤宮くんの家に住む」

「……はい?」

「だって、藤宮くんはわたしを受け取ってくれたでしょ? という事は、これはプレゼント成立だよね?」



「……どんな理屈だよ。まあ、両親はいないし、義理の妹と二人暮らしなんで……不可能ではないですけど……」

「じゃあ、いいよね!?」



 う~ん……正直、先輩が俺に好意を抱いてくれているのは、とても嬉しい。それに先輩は可愛いし、アイドルだ。プレゼントを受け取らない方がどうかしている。


 後は義理の妹次第――かな。

 なんとか押し切ってみるか。

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