<6-1 エリオデ大陸最高学府の長、死なせてくれと頼む>

クリスマスの少し前、私と結月ちゃんの同人誌は無事印刷・製本され、某県県庁所在地田峰田市でのコミケに無事間に合った。十数年ぶりに描いたのはここ2,3年スマホでやっていたRPGの二次創作で、結月ちゃんの本に間借りして4コママンガを5ページほど載せた。こちらの世界でもそこそこ名が知れた結月ちゃんの本とあって見事に完売、七光りに感謝していたんだけど、思いがけずうれしいことがあった。

 その女性は私と同い年位に見えた。結月ちゃんの作品のファンだという娘さんに誘われて、久しぶりにコミケに来たのだという。

 「あの、いきなり不躾ですみませんが・・もしや、“千夜一夜”の“シエル”さんでは?」

 「え?・・あ、はい。」

 女性の顔がぱあっと明るくなった。“千夜一夜”・・それは大学時代に私が所属していたサークルで、“シエル”は私のペンネームだ。今回もその名前で描いている。

 「やっぱり!大学時代に何度かコミケでお見かけしたな、と思って・・私、“桃源郷”の“桐壺”です!」

 「きり・・あーーーーっ、“桐壺”さん!え、うそ、マジですか!」

 「シエルさん、活動再開したんですか?“千夜一夜”も?」

 「いえ・・まだ皆、子育てとかで色々忙しくて。私もこちらのYUZUKO(結月ちゃん)さんに誘われて、やっとこれだけ描き上げることができて・・」

 「いいなあ・・私もそろそろ描きたいなあ・・いや、描こうかなあ。」

 隣で結月ちゃんと娘さんが目を丸くしていたが、十数年の月日がなかったかのように私達は短くも麗しい会話を交わし、次のコミケでの再会を誓って別れたのだった。

 このすばらしい再会の数日前、結月ちゃんは楠本テック御曹司楠本瑛太さんとのお見合いをしている。

 「振り袖着せられて、父が運転する車で行って・・なぜか兄もついてきたんですけどね。」と、天馬市文化財保護課のプレハブで報告した結月ちゃんは、遠い目をしていた。「荷馬車に乗せられた子牛の気持ちがわかりました。」

 「何言ってんの。それで?お相手はどんな感じだったの?」

 興味津々のおばさん達に、結月ちゃんはぐっと拳を握りしめた。

 「くっ・・・・・そいいヤツでした!あーーーーー、悔しい!そう思う自分がイヤ!!」

 頭を抱えて苦悩する結月ちゃん。しかも家族で向こうに年始の挨拶に行って、その後二人だけでご飯を食べに行く約束を取り付けられたんだそうだ。

 「お兄ちゃんと行けばいいじゃん!あたしよりお兄ちゃんとしゃべってたくせに!」

 「「「「まあまあ、まあまあ。」」」」

 「しかも、初回から結婚を前提として、とか言い出しやがったんですよ!!話、速すぎてお父さんの方が逆に引いてましたよ!お兄ちゃんはアレ絶対笑いをこらえてましたよ、肩震えてたし!!笑い事じゃないっつの!」

 「「「「まあまあ、まあまあ。」」」」

 その後もお怒りの結月ちゃんだったが、我々には生あたたかく見守ることしかできないわけで・・ただ、アレだ。

 「結婚って言われてお父さん、引いてたの?そっこー賛成すると思ったのに。」

 中井さんが言い、権田さんはにやりと笑う。

 「鈴沢さん、やっぱ結月ちゃんのことがかわいいんじゃない?惜しくなったのよ。」

 「う”っ・・」

 魔石と魔導師さんのおかげでわかり合えましたとも言えないので、

 「・・・ですかねー・・」

 とつぶやくにとどめた結月ちゃんだった。


 続いて。

 例年通り、実家の“桜寿司”での年末寿司パーティが終わり、三が日も過ぎ、仕事始めも終えて数日後。

 私と結月ちゃんは、とある場所に設けられた天幕の中に座っていた。

 「振り袖をこんな短期間に二回も着るとは思いませんでした。めっちゃ見られてません?私達。」

 それは、私達が座っているのが恐れ多くもVIP席であるうえ、私達が振り袖と訪問着なんか着ているからだと思う。

 ここは異世界エリオデ大陸中央を流れる大河エリリューの河畔。今日はこれから、ガルトニ王国王太子ヨシュアス殿下とヴェルトロア王国第一王女エルデリンデ王女殿下の婚約式が挙行される。

 和服は着慣れないので正直きついけど、頑張ろうと思う。王女様と王太子殿下がこないだ知り合ったばかりの異国の庶民を招いてくれたのだ。日本女性の一級礼装でなくてどうする。

 そして・・

 私の視線の先には、二階建ての家ほどもある石が立っている。式の会場は川岸の原っぱを整地して天幕や祭壇などをしつらえているんだけど、その中央に石碑が立っている。

 実はここは20年くらい前の戦場跡だ。

 本日婚約する王太子殿下と王女殿下の母国が最後に戦った大規模な会戦で、多大な死者を出した。石碑はその人達のための慰霊碑で、両国が石材と職人さんとお金を出し合って、この日に合わせて建てたものだった。

 今、両国の王様は和解し、今後戦争は一切せず平和な世を築いていくと、婚約発表と同時に宣言している。

 慰霊碑の建立と、その前で両国のお子さん方が婚約式をするのは、その決意の表現の一つだ。ここで亡くなった人たちに国の和解と未来への希望を見せたい、というのが両国の王様の願いだった。

 そういうコンセプトなので、式は荘厳で静かなものだった。めでたい感が漂ったのは両国の大神官の導きのもと、お二人が慰霊碑の前で婚約指輪を交わしたときと、その後の祝福の乾杯のときぐらいだろうか。

 「これで亡くなった人たちが、少しでも安心してくれるといいなあ・・」

 「そうですよね・・」

 乾杯のホットワインが体と心にしみた婚約式だった。

 

 そんなこんなで1月は行ってしまい、バレンタイン商戦が佳境に入った休日の午後。

 私は一人でまったりとコーヒーなど入れて、食卓で読書をしていた。先だってのガルトニコミックマーケットで買った本がまだ半分も読んでいなくてうずうずしていたところに、ダンナが月2回の柔道の練習に、息子と娘が友達の家に遊びに行ったのでこれ幸いとウスイホンを引っ張り出した。なお、年末のこちらの世界のコミケでもよさげな本を仕入れているので、カップの横にはそれらも積み上がっている。

 『折田!折田ー!!おーりーたーーー!!!』

 「あああっ!!コーヒーーー!!」

 死んでもコーヒーをウスイホンにこぼすまいとして、両腕を天高く掲げた盆踊りみたいな格好で、心の声で言い返す。

 『なんなの、ローエンさん、いきなり!!!』

 ローエンさんはヴェルトロア王国の主席魔導師で、魔法はすごいけど性格が大変雑である・・のは、今の呼びかけからもおわかりかと思う。

 『ウスイホンにコーヒーこぼしたらどうしてくれるの!新しいの、買って!』

 『買うか、そんなもの!いいから今すぐこっちに来い。クローネを向かわせる故・・』

 『また、そんな突然!』

 『私だ、ネレイラだ。実は今、人の命がかかっている。オリータ、事態を収められるのはお前しかいないのだ。』

 おや、ガルトニ王国主席魔導師ネレイラさんじゃないの。

 『今すぐ動けるか?』

 『動けますとも。今支度しますね。』

 『折田・・貴様、相変わらず何という裏表のあるヤツだ。』

 『友人の頼みとあらば引き受けないわけにいかないでしょ。』

 『ふふ・・葡萄酒を飲みつつ色々語らった仲だからな。』

 『なんだそれは。いつの間にお前達は・・』

 そこに、玄関のチャイムが鳴った。

 開けると、困惑気味のクローネさんが立っていた。珍しく白のパーカーにジーンズという私服姿だ。こちらの世界で会うときはいつもコンビニ店員さんの制服だし、母国のヴェルトロアに帰ればそちらの服か騎士の鎧姿なので、新鮮だなあと思いながらいつものデイパックにスマホや何かと食卓のウスイホンを放り込み、オーバーを着て・・

 「あ、折田さん、今から行くところはとても暖かいので、私みたいな格好でも十分だと思います。」

 「ん?ヴェルトロアじゃないの?」

 「はい。アストレイア都市連合と言いまして・・とにかく暖かいところなのです。あ、すみません、折田さん、ローエン様が早く来いと・・」

 「せっかちな。じゃあ、またお願いします。」

 相変わらず一人で転移できないので玄関で靴を履き、一応鍵をかけて、クローネさんに掴まって、異世界にGO!である。


 毛足の長いふかふかの絨毯の上に降り立つと、畳一畳ほどもある頑丈そうな黒い木の机と、その後ろでもみ合う3人の男性が見えた。まず、白い長衣を着て、腰まである黒髪を一本に結った背の高い若い男の人。ちょっと女性的な顔立ちのなかなかのイケメンである。そのイケメンさんは、銀色の長衣に長い白髪と細く長く伸びた白ひげのご老人を羽交い締めにしている。ご老人は手に何かの結晶を持ってもがいている。それを止めようとして止めれていないローエンさんがオロオロしている。相変わらず、こういうときにはイマイチな人だ。魔法はすごいのに。

 そして机の前でネレイラさんが私達にほほえみかける。

 「来てくれたか、オリータ。すまないな、急に呼びだてして。」

 「どうかしましたか?てか、アレですね?」

 もめている男性3人を見ると、ネレイラさんがうなずく。

 「アレだ。」

 「放せーーー!わしを死なせてくれーーー!殿下、放してくだされーーー!わしはもう生きてはおれーーーん!!」

 「原因はこれだ。」

 ネレイラさんが机の上から小冊子的なものを2,3冊持ってきた。

 「お?“待宵薔薇”じゃないですか。」

 “待宵薔薇”シリーズ。正式名称は“待宵薔薇―秘密の花園の奥にて”。この世界に月下のベルナこと結月ちゃんが初めて投下したBL同人誌で、一部の女性に大旋風を巻き起こした。先日それは、この世界初のコミケとして結実している。

 「そ、それを・・それを婦女子が見てはならーーーーーん!!くっ・・放してくだされ、殿下、ああ、あのような本を衆目にさらした恥を死んで詫びて・・」

 何を言っているんだろう。この本の主な読者層は婦女子である。婦じゃなくて腐か。

 ただ、殿下と呼ばれる若い人は結構背が高いので、ご老人が振り回す結晶が何度も顔のそばをかすめてて、

 「危ないですね、あの結晶。ローエン様、ちょっと失礼!!」

 “隼”が飛んだ。

 クローネさんは幅広の机に手をついて軽々飛び越え、ローエンさんとご老人の間に上手いこと着地、結晶を持つ手の手首をつかんでちょっとひねり、空いた片手で結晶を取り上げた。その間10秒ほど。さすがはヴェルトロア王国第一王女付近衛騎士団長“ランベルンの隼”だ。

 んじゃ、次は私の番だな。

 「あの、すみません。私、日本から参りました、折田桐子と申します。初めまして。」

 「ニホンとな?」ご老人が動きを止める。「聞いたことのない・・国か?」

 「はい、ここからずっとずっと遠いところにあるんです。そして、」“待宵薔薇”3巻を掲げる。「ウスイホンが巷にあふれてるんですよ、ニホンには。」

 ご老人がピタリと止まる。

 「かくいう私も“待宵薔薇”シリーズは全巻持ってます。“白金の竜と黒金の騎士”も。他にも水銀のレルタリスさんとか、真鍮のレムリアさんとか。」

 「な・・に・・では、お前さんは・・」

 「はい。」微笑んで私は答える。「同志です。」

 「お、おおおお・・・・」ご老人から力が抜けて・・と思ったら、「いや、それとこれとは別じゃ!男のわしがこれらの本を読んでいることが、弟子達に知れてしもうたーーー!!しかも、こちらのヴァレンティアス殿下にまで知れてしもうたーーー!これを恥としてなんと言おうかーーーー!」

 また暴れ出した。今度はクローネさんが素早く押さえ込む。さすがプロと言うべきか、先程来“殿下”と呼ばれている若い男の人より、よほどがっちりホールドしている。

 「我が師セルバ様、このような本のことでそこまで気に病むことはないのですぞ!」

 ローエンさんが慌ててなだめるも、聞く耳持たない。ネレイラさんが私を見る。

 その私は・・

 「何言ってるんですかねえ・・」

 むっとして一歩前に出た。


 「恥とはなんですか、恥とは。」

 「いや、恥・・むぐっ!」

 ネレイラさんに口をふさがれたローエンさんを無視して、私は机に身を乗り出す。

 「人様に迷惑をかけない限り、己の趣味嗜好を恥じることがありますか?犯罪にでも及ばない限り、自分の好きなことに誇りを持ってください。」

 「いや、誇ってよいこととそうでないこと、むぐ。」

 「し、しかし・・」ご老人は遠い目で窓の外を見る。「世間はまだまだこのような本を認めてはいるまい・・しかも男の、老体の身で嗜むなどと・・」

 「趣味嗜好に年齢性別は関係ありません。かくいう私も姉に初めてこの世界を紹介されたのは10歳の時。」

 「お前の姉は何を考えて・・むぐ。」

 「この十数年足を洗っていましたが、40歳の今、復帰!」

 「40歳とな!だが、わしはもはや70になんなんとする・・やはり死なせてくれい!!」

 えーい、頑固だな!

 「ならばこれでどうだー!!」

 背負っていたデイパックから詰め込んできたウスイホンを全部出して、マジシャンがトランプを広げるがごとくに机の上にざーっと広げた。

 「先日ガルトニコミックマーケットで入手した最新刊です!」

 「なにぃい?!これら全てが最新刊じゃとぉ?!」

 にやりと笑ってご老人を見る。

 「死んだらこれ・・読めませんよ?」


 ご老人の目の前で一冊のウスイホンを取り上げて、ひらひらと振って見せる。

 「これ、“待宵薔薇”シリーズの最新刊なんですよねー。」

 「ば、馬鹿な!あの本は完結したと聞いた!最新刊が出るわけがない!」

 ふっ、と私は笑う。

 「ええ、確かに本編は完結しました。でもこれ、ティエリーとフォレルのその後を書いた、外伝なんですよねー」

 「なっ・・ティエリーとフォレルのその後、じゃと・・?!あの・・あの、もどかしくも純粋な師弟のその後というのか?!」

 「死んだら読めませんよ?」

 主人公カップルに次いで人気があるこの二人の恋を、結月ちゃんはスピンオフとして描いた。さらにもう一冊。

 「これは湖畔のヴィオラさんと真鍮のレムリアさんの共著です。殺人事件に巻き込まれた黒金の騎士ブランガを助けるため、白金の騎士リーアムが偶然出会ったマルチェロとマルセラの力を借りて真犯人を見つけ出します。」

 「かっ・・な・・“天上の音楽”と“孤高のペン”の共著じゃと!フロインデン女神の恩寵のなせる技か!」

 「死んだら読めませんよ~?」

 「む、ぐぐぐぐ・・」

 「ちなみに湖畔のヴィオラさんはそろそろ“白金の竜と黒金の騎士”を完結させて、新シリーズを書きたいみたいなんですよね~」

 「何?!湖畔のヴィオラがあれを完結・・新しい話を・・・?!」

 「死んだら~読めませんよ~~てか~~、読まずに死ねますか~~~?」

 「ぬっ・・ぬぬぬぬぬ・・・くっ・・そうか・・」ご老人はは天を仰ぎ・・ややあって、ふっ、と息をついた。「おぬし・・この老体になかなか手厳しいのう。」

 「同志が神作品を見ずして死のうとしているのを、止めずにおれますか。あのですね、ニホンには腐男子といって、これらの文化を嗜む男性が存在します。」

 「フダン、シ・・おるのか、男でこのような本を読む者が。」

 「います。」

 日本で実際にお目にかかったことはないけど、結月ちゃんがいると言うんだからいるんだろう。それに・・

 「少なくともガルトニに一人はいらっしゃいます。」

 「なに?!まことか!」

 「はい。だから、安心してウスイホンを楽しんでください。死んだら読めませんからね。」

 ご老人は目を閉じ、しばらく考え込んで・・

 「娘さんよ、もう手を放してよいぞ。」

 「本当ですか?」

 「うむ。」

 拘束から解かれて、いすに座るご老人。一応、クローネさんが結晶をご老人の手から遠いところに押しやる。

 「同志よ・・名はなんと言ったかな?」

 「折田桐子です。こちらではオリータでとおっております。」

 「ではわしもオリータと呼ばせてもらおう。オリータ、おぬしの言うことのはいちいち道理があった。わしはこの年にして新たな感銘を受けたぞ。」

 「いや、そのような感銘はいら・・むぐぐ。」

 「心配せずともよい、ダリエリス、ネレイラ。もう死のうとは思わんよ。」

 「ではセルバ殿・・」

 「ご心配をおかけしましたな、殿下。」

 若い人は安心したように微笑んだ。そして時計を見る。

 「では、そろそろ行かねば。時間が迫っている。」

 「おお・・もうこのような時間か。」時計を見たご老人は立ち上がった。「オリータ、いつまで滞在は可能かな?」

 「え・・ええと、まあ、多少は時間、大丈夫ですけど。」

 「では少し話したいことがある故、そうじゃのう・・夕食を共にするというのはどうじゃな?わしはこれから野暮用があって、体が空くのが夕方からなのじゃ。帰りが遅くなるのは困るかな?なんなら学院の宿舎を一室用意するぞ。こちらの娘さんもな。そういえば、娘さんの名はなんというのじゃな?」

 「は、クローネ・ランベルンと申します。」

 「ランベルン・・もしやヴェルトロアのランベルン武爵家の娘御か?」

 「はい。」

 「そうか・・道理であの身のこなし。ではちと行ってくる。ダリエリス、ネレイラ、学務部に言うて、客人を宿舎に案内せよ。」

 「セルバ殿、その役目、私が引き受けよう。ローエン殿とネレイラ殿はこれより大学会での講演の準備があろう。大陸を代表する魔導師二人が同時に講演するなど滅多にないので、皆も楽しみにしているのだ。」

 「しかし、殿下に案内役など。それに殿下とて発表がおありです。」

 「よいのだ、ネレイラ。私もこの異国の者と少し話してみたい。」

 「大丈夫ですよ、ネレイラさん。お仕事の方を優先してください。私は役目を果たしましたから、後は気楽に過ごします。」

 「・・役目を・・果たした・・」

 「贅沢を言うな、ダリエリス。ともかくも丸く収まったのだ。時間もなかったしな。」

 「丸く・・」

 「さあ、行くぞ、発表の準備だ。」

 ネレイラさんにローブの首根っこを捕まれ、ズルズル引きずられて行くローエンさん。以前の口げんかを見ていたのでちょっとヒヤッとしたけど、存外おとなしく引きずられていった。

 去り際、ネレイラさんが振り返った。

 「ああ、オリータ。そのお方は・・いや、私からは言わないでおこう。殿下がお望みならば教えていただけるだろう。ではな。」

 「え、あの・・てか、さっきから“殿下”って。」

 「それは道々話そう。」“殿下”はいたずらっぽい笑みを浮かべた。「まず学務部へ行って、それから茶でも飲みに行こう。この学術院の喫茶室の茶はなかなか美味いのだ。」

 そう言って先に立ってドアを開け、私達を先に通してくれた。

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