<5-10 今回は結月に始まり結月に終わる>

 あれから三日過ぎた。

 私と結月ちゃんは、婚約の布告が終わった後、ヨシュアス殿下とエルデリンデ王女様をねぎらい、婚約式の招待状をいただいて一度日本に帰った。

 タイムラグとかあんまり関係ないとはえ、勤務前に出てきて色々やっていたので、なんとなく落ち着かず、とにかく仕事に行こうとなったのだ。日本人らしいなあと思う。

 給湯スペースで眠気覚ましのブラックコーヒーを二人して飲んでいると、権田さん達がやってきた。

 「おはよ、結月ちゃん。あの後大丈夫だった?」

 権田さんに聞かれてうなずく結月ちゃん。

 「はい、特に何事も無く。」

 無いどころではなかったんだけども。

 「お見合いは?するの?」

 中井さんに矢継ぎ早に聞かれて、うーんとうなる結月ちゃん。

 「迷ってます。けど・・多分、直にあって話した方が、その後色々スムーズなような気がします。」

 そんな実例を見たり聞いたり体験したりしたので、そこだけは確実らしい。

 「あ~そうかも~」と、月舘さん。「私もね~ダンナとは共通の上司の紹介でお見合いしてね~前から知ってはいたけど、話したことはなくて。でも会ってから断ってもいいかと思ってね~話してみたら案外おもしろい人でね~」

 「共通の上司の紹介・・って、月舘さん。」

 「あ~、私、婦警さんやってたの~」

 えーーーーー!と驚く私達。その声に入ってきた白田さんがびっくりして足を止めたくらいだ。どうりで脅迫の証拠を録音するとか手慣れていたわけだ。

 「婦警さん、辞めちゃったんですか?」

 恐る恐る訪ねる結月ちゃん。

 「子どもができるまで5年くらい共働きしてたんだけど~産休に入ってそのまんま辞めちゃったの~ウチの子、小さい頃ぜんそくがひどかったから、あまり目がはなせなくって~」

 「ちなみにあたしも見合いよ。見合いという名の強引な婿取りだったんだけど。」と、権田さん。「ウチの工務店の若い衆の中から父親が勝手に見繕って、見合いっていう体にして近所の料理屋さんでダンナのご両親も交えて向かい合ってさ。まあ、いい人だからよかったね。美紀ちゃんは学生時代からの彼氏だったんでしょ?」

 話を振られた中井さんが仕事用に髪を結いながら答える。

 「まあね。よく体育館の使用権を巡って争った男子バレー部のキャプテンの・・」

 「喧嘩からの恋ですか?!」

 ときめく結月ちゃんに、中井さんはにやりと笑った。

 「友達の男子バスケ部のキャプテン。」

 残念、部外者だった。

 「今はダンナとテレビのスポーツチャンネルの使用権を巡って争ってる。ところで、白田さんはどうなんです?」

 「ぶふぉ。」

 朝のコーヒーを噴いた白田さんの机を拭きながら、権田さんが追い打ちをかける。残りの私達も期待のまなざしを向けたので、観念した白田さん。

 「大学のゼミの後輩だよ。卒業しても発掘手伝ったり手伝ってもらったりして・・」

 「そのうち恋が芽生えたと。い~じゃないですか。はい、おかわりのコーヒー。」

 やれやれとコーヒーを飲み始めた白田さんを残し、私達は結月ちゃんを取り囲んだ。

 「で、どうするの?結月ちゃん。」

 「お父さんのことはともかく~、会ってみてもいいんじゃない~?」

 「そうそう、お父さんはお父さん、見合い相手は見合い相手。もしかしたら、もしかするかもしれないでしょ?」

 「・・・するでしょーか・・」

 その後、魔石を通じて聞いたところによると、完成した私と結月ちゃんの原稿を印刷所に入稿する日とお見合いの日がかぶっているので、時間をずらして欲しいと楠本瑛太さんに頼んだところ、あっさり了承してくれたそうである。いい人なのではなかろうか?

 (てか、印刷所に私が行ってもよかったんだよ?)

 (いえ、いいんです。ぜひ、私が行かせていただきます。何卒行かせてください)

 問題の先送りに・・しかも数時間しか送られない感じになっているけど、言わないでおいた。

 結月ちゃんの気がすむならそれでよかろう。

 私の思考は婚約式に着る服に飛ぶ。

 今度は日本女性の第一級礼装、着物で行こうと画策しているのだ。

 ただし自分の着物は持っていないし、レンタルなんぞして家族に気づかれると説明しづらいので、色や柄を決めて結月ちゃんの万能魔石アイリストスちゃんにつくってもらおうかなーと思っている。

 婚約式は何事もなく終わるといいなあ・・と思いつつ、私は縄文土器の拓本を取り始めた。  

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