6−9 里心
「あ、そ・それは…」
私は父から視線をそらせると言った。
「ダミアンとフレディには言わないと約束してくれる…?あの2人には余計な心配をかけさせたくないの」
「ああ、勿論だよ」
父は頷いてくれた。
「あの学園は、貴族と平民の差がとても厳しいの。制服の色からまず違いがあるのよ」
「え?そうだったのかい?それでは着ている制服の色で身分差が分かってしまうんだね?」
「ええ、そうなの。私達平民はグレーの制服で、下級貴族の学生は紺色、上級貴族の学生は白の制服を着るのよ」
すると父は目を見開いた。
「え?ロザリー。平民て…もしかしてお前は平民枠の学生として入学したのか?てっきり私は貴族学生として入学したのかと思っていたよ」
「当然よ。だって私は平民だもの」
「…」
そんな私を父は戸惑った様子で見つめている。父の言いたいことは分かっていた。
「ロザリー…お前は…」
父が口を開きかけた時―。
「あ〜いい湯だった」
「姉さんも入って来なよ。身体があったまるよ」
フレディとダミアンが居間に戻ってきた。
「ああ、2人ともあがったのか。ロザリーも入ってきたらどうだ?」
「うん。それじゃ…入ってくるわ」
父に促されて席を立つと、私は久しぶりの自室へ戻った。
カチャ…
扉を開けると懐かしい自分の部屋が現れた。床も壁も天井も…全て板張りの懐かしい部屋。お気に入りのピンクのカーテン、小さな木のベッドに木のテーブルと椅子…。
何もかもが懐かしかった。
リーガル学園に入学が決まった時…私はもう二度とこの家に帰って来れないだろうと覚悟していた。
大公家に嫁ぐには学園を卒業した証が無いと世間体が悪いということで、全寮制の学校へ入学させられ、長期休暇は貴族としての礼儀作法を身につける為にユーグ様の統治する『ローデン公国』で休暇を過ごす様に言われていた。
だから私は入学と同時に全てを諦めたはずなのに…。
「ずっと…この家にいたい…」
思わず口にしていた。
私の目からポロリと涙がこぼれ落ちた。
例え、貧しくてもこの家の生活は幸せだった。
今の学園生活は…私にとっては決して幸せだとは思えなかった。
平民と貴族の厳しい上下関係…自分が貧しいという事を知られない様に生活し無ければならない気苦労。そして…レナート様から受けた冷たい仕打ち…。
父も弟達も…血の繋がりは無いけれども、それでも私にとっては大切な家族だった。
その家族を守る為に、私はユーグ様の元へ嫁ぐことを決意した。
けれど、こうして実家に戻ればどうしても里心がついてしまう。この家から離れ難くなってしまう。
「本当は…この家に帰って来ない方が良かったのかも…」
私はポツリと呟いた―。
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