6−1 今学期最後の会話

ユーグ様が会いに来てから、早いもので3ヶ月が経過していた。学園生活にも慣れてきて、貴族学生たちとの距離のとり方も少しずつ身についていた。

週末は1人、帰省せずに花屋でのアルバイトも板についてきていた―。



キーンコーンカーンコーン…


教室にチャイムが鳴り響き、先生に私達に言った。


「はい、皆さん。時間になりましたのでペンを置いて下さい」


先生に言われた私達はペンを置き、今学期最後の試験が終わった。


「それでは後ろから順番に解答用紙を回して下さい」


先生の言葉に従い、一番後ろの席に座っていた私は前の席に座っているアニータに答案用紙を回した。


「ありがと」


アニータは小声で言うと私から答案用紙を受け取り、自分の答案用紙を重ねると前の席の人に回した。



 教壇の前に全ての答案様子を受け取った先生が口を開いた。


「はい、皆さん。お疲れさまでした。これで今学期の試験は全て終了です。良い休暇を過ごして下さいね」


そして先生が教室を出ていくと、一斉に生徒たちがざわめいた。


「やったー!やっと終わったぞ!」

「これで家に帰れるっ!」

「クリスマスが楽しみだわ〜」

「今年は家でパーティーを開くのよ」


騒いでいるのは貴族学生達ばかりだ。平民学生は皆静かにしている。本当は皆声を上げて試験が終わったことを喜びたいけれども、私達は貴族学生たちの前で目立った行動をする事は出来ない。だから平民学生たちは静かに喜びを噛み締めているのだ。


「それじゃ帰ろうぜ」

「ああ、行こう!すぐに帰省するんだからな」

「私は今夜の汽車で里帰りするのよ」


貴族学生たちは口々に言いながら教室を出ていく。そして彼等が教室から出て行くと、ようやく私達平民学生が教室を出ていくことが出来る。暗黙の了解で貴族学生たちより先に帰ってはいけないことになっているからだ。


「やっとこれで帰れるわね〜。ロザリーはまさか…長期休暇中も里帰りしないの?」


ナタリーが心配そうに尋ねてきた。


「いいえ、長期休暇中は帰れるわ」


私が返事をすると、ナタリーが嬉しそうに笑みを浮かべた。


「本当?良かったわ。道理でロザリーがここ最近明るくなったと思っていたわ。でも郷里に帰れるのは久しぶりだから嬉しいんじゃないの?


「ええ。そうね。嬉しいわ」


私は内心の動揺を隠しながらナタリーに返事をする。


「ね、それでいつから帰省するの?」


「明日からよ」


「本当?それじゃすぐに寮に帰って荷造りの準備をしなくちゃ」


「ええ、そうね」


そして私達は帰り支度を済ませると、教室を出た。



 寮に向かう間、ナタリーは嬉しそうに自分のクリスマス休暇の過ごし方を私に話して聞かせてくれた。


「…それでね、クリスマスには毎年恒例のクリスマスパーティーをするのよ。この日はね、レストランからシェフを招いて料理を作って貰うのよ…」


「本当?すごいわね」


ナタリーの言葉に相槌を打ちながら、私は心の中で彼女に詫びた。


ごめんなさい、嘘をついて…。長期休暇があっても私は実家へ帰る事が出来ないの。


何故ならユーグ様の元へ行かなくてはならないから―。

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