5-21 寄付金の申し出

 それから約40分後―


「ロザリー。あまり食事しなかったようだが…大丈夫だったのか?」


帰りの馬車の中、向かいの席に座るユーグ様が声を掛けて来た。


「はい、あまりにも豪華な食事を前にしたものですからそれだけで胸が一杯になってしまったのです」


本当はユーグ様と一緒の食事というだけで緊張して食欲など皆無だったのが本音だけども、決してそんな事口には出せなかった。


「そうか…。余程普段貧しい食事をしているのだな?学園の寄付金を増額して食事の内容をもっと改善するように伝えよう」


ユーグ様のその言葉に慌てた。


「い、いえ、大丈夫です。学園で出される食事、とても気に入っておりますので、このままで構いません」


「そうか…?まぁロザリーがそこまで言うのなら構わないが…これからは私がここへ足を延ばした時には、一緒に食事をしよう。ロザリーはもっと豪華な食事に慣れておいた方がいい。次回からは私が直にテーブルマナーも教えてあげよう」


「は、はい…ありがとうございます…」


頭を下げるとユーグ様は笑みを浮かべた。


「何、気にする事は無い。何と言っても可愛いロザリーの為だからな」


「…」


その言葉に全身に冷や水を浴びせられたかのような感覚に陥ってしまった。


「い、いえ…そんな…」


私は何と返事をすれば良いか分らなかった―。




****


 寮のある門の入口で馬車は停車した。


ノーラさんの手を借りて馬車を降りた私は車内に座るユーグ様にお礼を述べた。


「本日はお食事に誘って頂き、どうも有難うございました。その上、こんなに素敵なドレスも頂き、感謝の言葉しかありません」


頭を下げるとユーグ様は笑みを浮かべた。


「いいや、気にする事は無い。そのドレス…本当にロザリーに似合っている。これから毎月1着ドレスをプレゼントするからいつまでも粗末な服を着ているのではないぞ?」


「…はい、分りました」


本当は学費の御世話だけで、それ以上の施しは受けたくは無かった。しかし、私はそれを拒否する事すら出来ないのだ。

こうやって私は何もかもユーグ様の色に染められ…卒業と同時に嫁がなければならないのだろうか…。その事を考えると絶望しか無かった。


「…」


ユーグ様は少しの間だけ、私をじっと見ているとノーラさんに声を掛けた。


「それではそろそろ帰ろうか」


「はい、ユーグ様」


ノーラさんは返事をすると私に言った。


「ロザリー様。またお会い致しましょう」


「はい」


「それではな、ロザリー」


「はい、お元気で。ユーグ様」


そしてノーラさんは馬車に乗り込み、扉を閉めると馬車はガラガラと音を立てて、夜の町目指して走り去って行った―。



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