5-20 2人で交わした賭けの内容

「どうだね?学生生活は」


ユーグ様がお肉料理を切り分けながら尋ねて来た。


「はい。勉強はなかなか大変ですが、知識を学べるのはありがたいです」


「そうか。それは何よりだ。ロザリーは真面目で努力家だからな。それで、勉強以外ではどうなのだ?」


「はい。親しい友人が出来たので…毎日が充実しています」


すると少しだけユーグ様の眉が上がった。


「…あの彼は友人では無いだろうね?」


「…あ。ひょっとして…レナート様の事でしょうか…?」


「ああ、そうだ。彼がもし友人なら…悪いことは言わない。手を切りなさい」


そしてユーグ様は切り分けたお肉を口に運んだ。


「レナート様は…友人という程の関係ではありません。ただのクラスメイトです」


「そうなのか?ただのクラスメイトの割には妙にロザリーに接近しているではないか。それとも…私の気のせいか?」


ユーグ様はじっと私を見た。…駄目だ。この方は何でも見通す事が出来る。誤魔化しなど通用しない。


「レナート様には…婚約者がいらっしゃいます。その方と親しくさせて頂いているからではないでしょうか?」


「そうなのか?まぁ…彼に婚約者がいるならロザリーに手を出す事はなさそうだが…」


「そんな…恐れ多いことです」


私はサラダを口に運んだ。


「恐れ多いことは無いだろう?ロザリーはもっと自分の本来の身分を考え直した方が良い。何故わざわざ平民枠で学園に入学したのだね?君なら上位貴族身分として入学出来る資格があったではないか?」


「ですが…実際私の暮らしは貴族とは程遠いものでしたし、爵位もありませんから」


「爵位が無くとも、高貴な血を引いているのは間違いない。もっと自信を持つのだ。何しろ、君はいずれ大公家に嫁ぐのだから。尤も…その前に賭けに君が勝てばその話も無くなるけれどな?」


ユーグ様は笑みを浮かべて私を見た。


「そ、そうですね…」


私は返事をするのが精一杯だった。ユーグ様は始めから分っていたのだ。私が賭けに勝てるはずが無いと言う事を。


こんな…階級制度が絶対的な学園で…私が卒業までに貴族男性と恋愛関係になって、婚約まで成立させるなんて…。


「どうした?ロザリー。食があまり進んでいないようだが?」


ユーグ様が尋ねて来た。


「い、いえ。そんな事はありません。頂いています。ここのお料理は本当に美味しいですね?」


「そうか?気に入ってもらえて良かった。この町には仕事があって来たのだが…これからも時々訪れる事があるからな。その時は、また一緒に食事に行こう」


それは有無を言わさない強い口調だった。


「はい。分りました」


私は体の震えを隠しながら返事をした―。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る