5-16 お使いの先は
お使い場所はお花屋さんから歩いて10分ほどの場所にあるレストランだった。お洒落なオレンジ色のレンガ造りの建物は大きなアーチ型の窓がはめられている。
こんな高級そうなレストランは私には縁がない場所だったので、こんな素敵なお店の扉を開けてくぐるのは少しだけ緊張した。
カランカラン
ドアに取り付けられたベルを鳴らしながら私は扉を開けた。
「こんにちは、『フラワーショップ』からお花をお届けに参りました」
「やぁ、待っていたよ」
すると店の奥からコックスーツを着た若い男性が現れた。
「こちらご注文の花束になります」
男性に手渡すと、その人は私を見て首を傾げた。
「君、初めて見る顔だね?もしかして新しい従業員の子かな?」
「私はつい最近アルバイトとして働き始めた者です」
「そうか、名前は何ていうの?」
「はい、ロザリーと申します」
「ふ〜ん。ロザリーちゃんか。君…とっても可愛いね」
「え?あ、ありがとうございます…」
いきなりの言葉に驚いた。
「あ、ごめん。いきなり名前を聞いたりして。僕はヴィンサント。この店のシェフをしているんだ。カトリーヌさんの店は度々利用させて貰ってるんだよ」
笑顔で話しかけてくる。
「そうなのですか?いつもご利用頂き、ありがとうございます」
するとヴィンサントさんは驚いた様子で私を見ている。
「あの…どうかしましたか?」
「あ…う、うん。まだロザリーちゃんは若いのにしっかり挨拶が出来るから偉いなと思ってね」
「どうもありがとうございます」
「はい、お花代だよ」
ヴィンサントさんは封筒を手渡してきた。
「はい、お預かりいたします。ありがとうございました。失礼致します」
頭を下げてお店を出ようとしたところで呼び止められた。
「あ、ロザリーちゃん」
「はい?」
「今度、うちのお店に食べにおいで」
笑顔でヴィンサントさんが言うけれども、このお店の料理なんて…。私が口に出来るはずも無かった。でも、そんな事言えるはずがない。
「はい、ありがとうございます」
頭を下げると、私はお店を出た。
「は〜…お店…戻りたくないわ…」
お店に戻ればレナート様がいる。まさか、毎週来るという事は無いだろうけれども…。
重い足取りで私は店へと戻って行った―。
****
「ただいま戻りました」
「あ、お帰りなさい」
店の中を見渡すとレナート様の姿が見当たらない。するとカトリーヌさんが声を掛けてきた。
「あ、お手伝いの子なら帰ったわよ」
「え?帰った?」
「う〜ん…帰ったと言うよりは…昨日お店に来た男の子と女の子がお店を尋ねて来て、連れて行ったのよ」
「そうだったんですか?」
きっとイアソン王子とフランシスカ様だ。でも良かった…。これで安心して働く事が出来る。
私は胸をなでおろした―。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます