5−17 お迎え

 17時―


「お疲れさまでした」


アルバイトの終了時間になったので、私はお店番をしていたカトリーヌさんに挨拶をした。


「ええ、ありがとう。また来週お願いね」


「はい、宜しくお願いします」


ペコリと頭を下げると店の奥に移動してエプロンをはずし、荷物を片付けると裏口から私は店を出た。




 オレンジ色に染まる町中を歩いていると、不意に背後から声を掛けられた。


「ロザリー様」


「え?」


振り向くと道を行き交う人たちの中に紛れ込むようにノーラさんが立っていた。


「ノーラさん…どうかしたのですか?」


「はい。実は今夜、ユーグ様がお帰りになるのでロザリー様との食事をご所望していらっしゃいます。そこでお迎えに参りました」


「え…?」


その言葉に思わず顔が青くなる。ユーグ様と食事…。本当はいやだけど、私には拒む権利が無い。


「わ、分かりました…。ですが、今の私はこの様に薄汚れた服を着ておりますので…」


するとノーラさんが言った。


「ええ、ですので私がお迎えに参りました」


「え?」


「あちらに馬車を待たせてあります。すぐに参りましょう」


ノーラさんの指し示した方角には1台の馬車が停まっていた。


「はい…分かりました」


「では一緒に参りましょう」


「はい」


そして私はノーラさんに連れられ、馬車に向かった―。




「あの、これからどちらへ行くのでしょうか?」


向かい側に座るノーラさんに尋ねた。


「はい、今からブティックへ参ります。そこでロザリー様にぴったりの服を選びましょう」


「そ、そうですか…」


本当は何一つユーグ様から施しを受けたくは無かった。けれど、今回ばかりは断るわけにはいかない。

私はギュッとスカートを握りしめ、窓の外に視線を向けた―。




 ノーラさんが案内してくれた店はこの町では有名で、貴族御用達のブティックだった。


「ようこそ、お越し下さいました」


お店に到着すると、笑顔で女性店員さんが出迎えてくれた。


「今日はどの様な服をご所望ですか?」


「ええ、こちらの方に似合いそうな服を1着お願いします」


ノーラさんに言われて、私を見た女性店員の顔がすぐにこわばる。でも、この反応は至って普通だった。ブラウスに麻地のジャンパースカート…。とてもではないけれども、貧しい平民が来るべきお店では無い。


「あ、あの…失礼ですが、本当にこちらのお客様で宜しいのでしょうか…?」


女性店員の言葉にノーラさんは鋭い視線を浴びせながら言った。


「ええ、そうです。何か問題でもありますか?」


「い、いえっ!申し訳ございませんでした!ど、どうぞこちらへ」


女性店員は頭を下げると、私に声を掛けた。それがとても申し訳無かった。


「あ、あの…」


ためらいながらノーラさんを見ると、私に笑顔を向けてきた。


「どうぞ、素敵な服を見つけてきて下さい」


「は、はい…」


こうして私は店員さんに案内されて店の奥へと連れて行かれた―。



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