4−15 これから私は
フランシスカ様達が保健室から出て行き、再び部屋の中が静かになった。
「…」
ベッドからゆっくり起き上がるとため息をついた。私は本当にもうレナート様に嫌われてしまった。これからどうしたらいいのだろう?レナート様とは同じクラスなので避けることは出来ない。いっそのこと学校を辞めてしまえば良いのかもしれないけれど、あの方に必ず高校を卒業するように言われているので辞めるわけにもいかない。いっそ…無理を承知で転校させて貰えないかお願いしてみるべきか…。
でもそれは嫌だった。あの方の命令ならば仕方なく言うことを聞くけれども、こちらからお願いだけは絶対にしたくなかった。借りを…作りたくは無かった。
「私は…我慢して学校へ通わなくてはいけないのね…」
いっそ逃げられたらどんなにかいいか。けれど私が逃げたら郷里に残された父と弟達は?私は家族を人質として囚われている状態に近いのに…?
八方塞がりだった。
まだ入学して間もないのに、後3年間はレナート様の冷たい視線に耐えなければならないなんて地獄だった。
今の私に出来ることは二つ。
レナート様とフランシスカ様、そしてイアソン王子に決して近づかないこと。教室では空気の様な存在に徹する―。
そして3年間我慢をして学校へ通い、卒業して…私の真の地獄が始まるのだ。
ここへ入学する時に描いていた一筋の希望はもろくも絶たれた。
私はもうこの先ずっと心を殺して生きていくしかないのだろうか…?
「…ふ…うっうぅう…」
再び、堪えていた涙が溢れ…私はベッドに潜り込んで泣き続けた。
だから…気づかなかった。
保健室に人が入ってきたことに。
「ロザリー」
不意に名前を呼ばれて、ビクリとした。
あの声は…。
「開けるよ、ロザリー」
返事をする間もなくカーテンが開けられ、姿を現したのはイアソン王子だった。
「あ…イアソン王子…」
私は涙で濡れた顔をイアソン王子の前にさらけ出す事になってしまった。
「!」
必死で涙をハンカチで押さえると頭を下げた。
「ど、どうも…。お見苦しい姿をお見せしてしまい、申し訳ございません…」
「ロザリー…やっぱり俺たちの話を聞いていたんだな?」
「…」
私は黙っていたが小さく頷いた。何か口を開けば涙が溢れてしまいそうだったからだ。
「…あいつは…レナートはおかしくなってしまったんだよ…」
え…?
その言葉に自分の肩がピクリと動く。
「レナートは…フランシスカにあまりにも相手にされなくて…フランシスカに対して一種の狂気じみた感情を持つようになってしまったんだ。俺とレナートは…初等部からの知り合いなんだよ。…フランシスカは中等部になってからこの学園に入学してきたんだ」
イアソン王子はポツリポツリと語りだす。
「フランシスカはある一件がきっかけでレナートの事を避けるようになって…それが原因で…レナートは少しずつおかしくなっていったんだよ。普段は人当たりの良い男なのに、フランシスカが絡むと…狂気じみてしまうんだ…。本当にあいつはフランシスカ一筋だったから…」
「そう…だったのですね…」
「だから、あいつの事は何を言われても気にするな。今に始まったことじゃないから…。何かあれば俺がレナートから守ってやるから…」
「いいえ…折角のお言葉ですが…遠慮させて…下さい…」
私は涙を堪えながら口を開いた―。
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