4-14 聞きたくない言葉

「…ふっ…」


我慢していた嗚咽がとうとう漏れてしまった。


「え?今声が…ロザリーか?」


イアソン王子の声が近付いて来る。


ど、どうしよう…今、カーテンを開けられたら泣き顔を見られてしまう。盗み聞きしていたことがバレてますますレナート様に嫌われてしまう…っ!


その時―



「いい加減にしてっ!!」


扉が開かれる音が聞こえ、部屋の中にフランシスカ様の声が響いた。


「フランシスカッ!」


レナート様が嬉しそうにフランシスカを呼んでいるのが、声の様子で分った。


「レナート…貴方って本当に酷い人なのね?話は全て外で聞いていたわ。ロザリーと待ち合わせをしていたのでしょう?貴方が来なかったから彼女はずっとあそこで待っていたんでしょう?あんなに身体が冷たくなって…。しかも風邪を引くぐらいに…」


「確かにそうかもしれないけれど、あの人物は…フランシスカに害を及ぼす相手だ。だから待ち合わせ場所に行かなかったんだよ。イアソン王子に恋する君を傷つけるような人の顔も見たくないからね。おまけに来るはずもない僕を勝手に待っていたんだよ?風邪を引いたのだって…自業自得だよ」


「レナートッ!」

「レナートッ!お、お前って奴は…!」


悲鳴混じりのフランシスカ様の声と、イアソン王子の非難めいた声が聞こえてくる。


レナート様…。


私はすっかり絶望的な気持ちになっていた。


『顔も見たくない』


その言葉が心を抉る。そこまで私が嫌いになりましたか?レナート様…そこまで私は貴方に恨まれることをしてしまったのでしょうか…?


後から後から涙が溢れて止まらない。私は嗚咽が漏れないように両手で口を押さえて必死に堪えた。もうこれ以上何も聞きたくない。本当は耳を塞ぎたかったけれども、そんな事をすれば声を抑えることが出来ない。


するとフランシスカ様が声を荒らげた。


「レナート…だから私は貴方が嫌なのよっ!私は…た、確かにイアソン王子に惹かれてはいるけれど…」


「フランシスカ…」


イアソン王子の声が聞こえてくる。


「けれど、それは単なる憧れでしか無いわ!だって貴方という婚約者がいるのだから…ただ側にいられればいいと…思って頂けの方なのに…何故ロザリーにそこまで酷いことを言えるの?!私の為だとか言っていたけど…だとしたらレナートが今している事はまるきり真逆よ!私は…ロザリーの事を友人だと思っているのよ。その友人を傷つける事を平気で言う貴方なんか…大嫌いよ!」


私はフランシスカ様の言葉に衝撃を受けた。レナート様の事を大嫌いと言ったのも驚きだったが、私の事を友人と言ってくれた事が嬉しかった。


フランシスカ様…。


その時、イアソン王子が言った。


「落ち着くんだ。余り大きな声を出すと、ロザリーが目を覚ましてしまう」


「あ、そ、そうだったわ」


フランシスカ様が慌てた様に言う。


「とりあえず…ロザリーはまだ眠っているのだろう。これ以上ここで騒ぐと彼女が目を覚ますかもしれない。…行こう」


「ええ」

「いいですよ」


フランシスカ様とレナート様の声が聞こえ…やがて足音が遠くなり、扉の開閉音が聞こえて、保健室の中は静かになった―。






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