第14話
杉原の隣は心地よかった。
それから少しだけ時間が過ぎて、杉原が喋りだした。
「びっくりしたよ。星司が来てくれるなんてさ」
杉原はいつもの優しげなふわりとした雰囲気で話を続けた。
「あと少しで電車が来るって時にさ、中学生が線路に飛び込んだんだ。
やばいって思ってサラリーマンに非常ボタン押してもらって、俺も飛び降りた。
力付くで中学生引っ張ってさ、慌ててホーム下の避難スペースに押し込んだよ。
中学生も捻挫と擦り傷くらいで済んだしよかったぜ」
武勇伝のように話す杉原はそれから苦笑いした。
「中学生には助けたこと怒られたけどな!
でも・・・・・よかった。生きてるから。」
僕は無意識に杉原の手を取った。
杉原も嫌な顔しなかった。
「なんかね、その子、死にたがってたんだ。
自分は生きてても仕方がないんだって。
どうしてそう思うようになったのかはわからないんだけど、俺はそれじゃいけないって思った。」
それから杉原はしっかりと僕の手を握って言った。
「なあ、星司。俺、7年前に死ぬかも知れなかったんだ。」
僕はびくりとした。
7年前、それは優太が死んだ年であった。
「月哉に聞いたよ。星司が笑わなくなったこと、泣かなくなったこと、7年前の脱線事故で死んだ友達のことも。」
僕は目を伏せた。
思い出すと胸がきしむ。
苦しくなる。
大切な人を失う悲しみが込み上げてくる。
目を開けて杉原を見ると、切なそうに話し出す。
「俺は7年前のあの日、たまたま真ん中の車両にいて父さんが一緒に乗っててさ、父さんはガタイも良くてしかもそんなに周りも混んでなくて、俺をしっかり抱き止めててくれてたんだ。
俺はすごく怖かった。
前の車両はぺしゃんこだし、怪我してる人もいっぱい見た。
あんなにも簡単にたくさんの命がなくなるなんて思ってなかったんだ。」
杉原は思い出すように目を伏せていた。
「だから今日、咄嗟に助けに飛び降りた」
杉原の手は、握っていながらも震えていた。
「誰かが死ぬのを、もう見たくなかった。
誰かが死んで、周りの人が辛そうに生きてるのを見たくなかったんだ。」
杉原の目には涙があった。
僕はしっかりと手を握り、片手で彼の涙を拭った。
杉原は僕の瞳を見ていた。
「いつも、いつも星司は泣きそうな顔してた。
俺、お前のその顔がいつも気になってた。
お前のその顔の原因を知りたかった。
誰がお前をそんな顔にさせるんだろうって。
その人がもういないって知った時、お前を苦しみから解放してやりたいって思ったんだ。」
杉原は涙を流したまま、微笑んだ。
「でも、お前は大丈夫だな。お前、もうアイスドールじゃないんだから」
その言葉に僕は涙が流れていることに気がついた。
愛しい人の隣で、一緒に涙を流している。
僕は、杉原の背中に手を伸ばす。
・・・・・壊れそう。
華奢な体は今にも壊れそうだった。
杉原はしっかりと僕を抱き締めてくれた。
僕は小さな声で言った。
「ありがとう。」
「うん。」
杉原の温もりが本当にいとおしい。
「好きだ。」
「うん。でも、俺男だよ。」
「君は、僕を取り戻してくれた。」
「そばにいていいの?」
「そばにいて」
「わかった」
杉原の優しさは変わらなかった。
「俺、男だから星司にふられたのかと思った。」
「違う。僕が男だから君をふったんだ」
「え?」
「僕は、僕が好きな君の
僕は秋ちゃんを見る君の優しいかおを僕のそばでして欲しいなって思ったんだ。でも」
苦しみから解放されてゆく。
素直になれる。
君のお陰だ。
「僕は君にどんなに頑張っても家族を作ってあげれないんだ」
僕がそう言うと杉原は僕を力強く抱き締めて言った。
「ばっかじゃないの!お前!」
馬鹿だと言いながらも力のこもった熱い抱擁に、僕は抱き締め返した。
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