第13話


小沼病院に着くと、杉原のお姉さんがロビーで僕を待っていた。

僕は真っ先にお姉さんの元へ向かった。


「星司君!」

「杉原は!?杉原はまだ起きてないんですか!?」


目を覚ましてないと聞いた杉原が心配で心配で仕方がなかった。


そして後悔していた。

あの時別れる決断をしたことを。

もっと一緒にいればよかったと。


「星司君」

「はい」

「ごめんね」

「え?」

「夏来は怪我したけど元気だよ」


それを聞いて力が抜けた。

そして慌てていたことが少し恥ずかしくなった。

僕は思わずため息が出てしまった。

そのあとに「よかった・・・・・」と小さく呟いた。


お姉さんは切ない顔で僕を見ていた。

僕はその視線に気づいてお姉さんをみた。


「夏来に会ってやってくれる?」


苦笑いをしながらお姉さんは言った。

僕は本当に怖かったし今すぐ杉原に会いたかった。

でも、今急に安心した。

それほど僕は杉原が好きなんだと妙に納得してしまった。


「夏来にね、『星司君に連絡しなくていいの?心配するんじゃないの?』って聞いたの。

そしたらね、頑なに嫌がってさ。二人になんかあったのかなって。」

「・・・え」

「ほら、夏来って男の人が好きでしょ?星司君、夏来のこと知って嫌いになっちゃったのかなって思ってね」


お姉さんは申し訳なさそうな顔で僕を見ていた。

僕はまっすぐにお姉さんを見た。


「嫌いになんて、ならないです。

むしろ、大切すぎて僕が杉原を距離をとりました。」


お姉さんは今度はびっくりしたように僕を見ていた。


「杉原に会ってきます。」


お姉さんから病室を聞き出して、病棟の入り口にある受付で名前を書いた。

その時間ですらもどかしかった。

病室はまさかの個室だった。

ノックをすると、杉原の元気な返事が聞こえた。

スライド式のドアを動かして顔を覗かせた。

杉原は上半身を起こしていて、傍らにはしおりのはさんだ本がおいてあった。

杉原は僕を見て目を大きくしていた。

僕は黙って傍に行った。

傍によって杉原を見ると、杉原は泣きそうな顔をしていた。


「星司・・・・」


黙ってこちらを見る杉原が、僕は本当にいとおしく感じた。

君がいる。君が生きてる。

ちゃんとここに存在している。

僕はただ傍によって言葉を紡いだ。


「よかった」


ただ率直に。


「君がいなくならないで」


僕の頬に、何かが伝った。

それは何年も見たことのないものだった。

僕はその場から動けなかった。

でも、すぐ傍にいる杉原がベッドの端を少しあけた。

それから自分の隣をぽんぽんと軽く叩いた。


「おいで。」


僕はそのスペースに腰をおろした。

それから僕の顔に手を伸ばして微笑んだ。


「ここにいる。俺、いなくならないよ。」


僕の涙を拭う杉原の姿に僕は安心感をえていた。

それから、もう手放せないと思った。

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