第12話


あれから、何日たったか忘れた。

月哉は家で俺を監視するかのごとく飯時には俺をダイニングへと引きずり出した。

クラスの違う杉原はあまり会わなくなった。

その代わり、噂話はよく聞こえてきて杉原が女子に告白をされたとゆう話であった。

僕もまた同じように、以前のように女子からの告白をされた。

変わったことといえば僕の告白の断り方が変わった。


「ごめん、付き合えない。

もう誰とも付き合わないって決めたんだ。」


例え誰かと付き合ったとしても、たぶん、杉原よりも心地のよい人なんていない。

いたとしてももう誰かを失うのは嫌なんだ。

そして、杉原を振った時にもらったありがとうの言葉が僕に残っていた。


「青柳君変わったよね」

「丸くなった」

「ひどいふられかたしたのかな?」

「でもさ、しばらく誰とも付き合ってなかったよね?」


そんな声が学年を駆け巡っていた。

最初こそ胸くそ悪かったが、読書に没頭していれば平気だった。

つまらない。

不思議と日常がつまらないと感じた。


それから杉原を思い出すと、そのあとに必ず優太を思い出した。

そして優太の最期を思い出した。


優太の死は、完全に運だった。

たまたま優太の乗っていた電車が脱線し、たまたま優太の乗っていたのが先頭車両だった。

電車は何故脱線したのかはわからない。

もう七年も昔のことにもかかわらず、今でもたまに話題に上る。

その時の脱線事故は、新聞にもテレビにも大きく報道されていた。


僕はたまに望むんだ。

事故でもなんでも優太のところにいけないだろうかって。

多分自殺なんてしたら優太は口も聞いてくれなくなる気がするから。

ほんとに偶然が重なればいい。

そして優太の元へ行くんだ。

僕が、僕でいられる場所へ。


そんなある日のことだった。

一時間目と二時間目の間の休み時間。

ポケットにいれていたスマートフォンが震えだした。

電話だった。

それも杉原からだった。


「もしもし」


杉原から連絡がくるのは久しぶりだった。

それから、クラスが少しざわついていた。


「星司君?」


その電話の声は、杉原夏来ではなかった。


「私、夏来の姉の冬香なんだけど」


クラスのざわめきに少し悪寒がした。

しかも、みんなスマートフォンを除きこんでいる。

僕は電話の声に耳を傾ける。


「お姉さん・・・どうしたんですか?」

「夏来が・・・」

「え?どうしたんですか?」

「電車で人身事故にあって、今病院にいるんだけど・・・・」


僕の時が一瞬止まったんじゃないか。

そう思ってしまうくらい心臓がばくばくとしていた。


「星司君?」

「は、はい!」


思わず会話が途切れそうになる。


「なんか、ホームから線路に飛び降りた中学生を助けようとして夏来も飛びこんだみたいで・・・・・

まだ、目を覚まさないの」


僕はそれを聞いた瞬間に教室を出ていた。

歩きつつ、会話をする。

授業なんてもうどうでもよかった。


「杉原は、いまどこに!?」


思わずそう聞いていた。


「小沼病院よ。星司君・・・・」


病院名を言ったお姉さんの僕を呼ぶ声がひどく切なげだった。

僕は「はい、」と一言返すと言った。


「夏来に会ってあげて」


僕は学校を飛び出した。


今すぐに杉原に会いたいと思った。

また大切な人を無くしてしまうんじゃないかと怖くなって。

また、僕の知らないうちに消えてしまうんじゃないかと不安になった。

杉原は僕を大切にしてくれた。

僕は人形ではないとかばってくれた。

優太を重ねた。

だからこそ今度こそ失うのは嫌だと強く思った。


小沼病院までの道のりに苛立ちを覚えた。

バスはどう頑張っても急げない。

あせる気持ちがどんどんつのる。


僕は、杉原の無事を祈るしかできなかった。

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