第11話
***
夢を見たんだ。
僕は公園でベンチに座って本を読んでいたんだ。
そこに、二人分のコーヒーを持って杉原が来るんだ。
そして僕の隣に座って、杉原も自分の本を開く。
僕は杉原の読んでる本が気になって、杉原から本を取り上げるんだ。
すると杉原は笑ながら僕に寄り添って本の内容を教えてくれるんだ。
それから日向ぼっこしながら読書して、二人で手を繋いで歩く。
杉原は明日のお弁当の話を持ち出してくるんだ。
僕は和食がいいなって言って、笑いかける。
なんて幸せな夢なんだろう。
僕の隣に君がいる。
なんて残酷な夢なんだろう。
現実に戻れば、君はもうそばにいない。
***
「ちょ、星司大丈夫?」
学校でたまたま会った月哉に声をかけられた。
「最近あんまり飯食べてないだろ」
「・・・・」
「顔色悪すぎ。来い。」
月哉は僕の手を引き歩き出す。
それから保健室につれてこられる。
「先生、こいつ寝かせていいですか。」
「青柳君!どうしたのいきなり。」
「兄貴なんですけど、なんかちゃんと寝てないみたいで顔色悪くて。いつもはもうちょいマシなんですけど。あ、利用届けは俺書いておきます。」
保健室に初めて入ったと言っても過言ではない。
これまで利用したことがないからか、保健の先生はすんなりとベッドを貸してくれた。
僕は一番左側のベッドに寝転んだ。
「じゃあ、適当に寝かせて教室戻してください」
月哉が、しきりのカーテンを動かして言った。
それから「どうしたんだよ」と僕に聞いた。
僕は隠さずに最近の夢を話した。
「夢を見たんだ。」
「夢?」
「夏来が僕の隣にいるんだ。
それで楽しそうに笑ってて、一緒に日向ぼっこするんだ。
幸せな気持ちでいっぱいになるんだ。」
「いい夢じゃん、それ」
「僕には残酷だ。」
残酷だ。
あの人は今、隣にいない。
手を伸ばしても笑かけてくれる杉原はもういない。
苦しい。
胸の中をえぐられたような、心臓を掴まれているような、緊張をしているような、何とも言えない胸の苦しさ。
消えない愛しさと世間体と戦いながら、夢の中では幸せだけど残酷な日々を送っていた。
「後でまたくる。」
そう言って、保健室をあとにした。
僕は眠れなかった。
とても眠かったが、最近ずっと同じ夢を見るからそれが嫌で寝るのを拒んでいた。
杉原は夢で笑かけてくる。
それを見るのが本当に嫌だった。
しかし、さすがに体がしんどい。
自然とまぶたが落ちてきた。
保健室の独特な薬品っぽい臭いが不思議と心地よかった。
どれくらい眠っていたのだろうか。
誰かが僕の手を触っている。
ひんやりとして華奢な感じの手。
心地よい。なんだろう、僕はこの手を知っている気がする。
うっすらと目を開けた。
そうだ、あまりにも寝不足すぎて保健室に行かされたんだった。
握られた手の方を見る。
「起きたの?」
柔らかなテノール。
華奢な腕に大きな瞳。
僕は驚きすぎて思わずぽかんとしてしまった。
ベッドの横に座っているのは、つい最近振ったばかりの元恋人だった。
「月哉に聞いたよ、あんまり寝てないんだって?
様子見に来てみたらいきなり俺の手掴むし俺のこと呼んでるし。」
いとおしそうに僕に話す声が心地いい。
「杉原・・・・」
「なあに?」
「僕は、お前を呼んでた?」
「呼んでた。」
「ごめん。」
「全然構わない。」
僕はずっと迷っていたんだ。
僕は君を幸せにしてやれない。
どう頑張っても僕は家族を作ってやれない。
僕は君のように明るくないし、愛嬌もない。
へたれだし、いいところひとつもない。
僕よりももっとふさわしい人が君にはいる。
そう思って君から引いた。
僕なんかにはもったいない。
だから君から離れたのに。
僕にはもう無理だ。
僕が無理だ。
君から離れることに・・・・。
僕は思わず繋いでいた手をぎゅっと握りしめた。
すると、君は嬉しそうな顔をしながら僕に尋ねた。
「どうしたの?今日は甘えたさんだね」
「あぁ。」
なんで君は傷つけた僕に笑いかけるんだろう。
どうして君は・・・・
「どうした?星司また泣きそう」
僕は君の手を離せなかった・・・・。
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