第9話


週末、二人で杉原のお姉さんの家へと向かった。

その時、杉原はそれなりに育ちがよいことを知った。

お姉さんは驚いたように僕を見ていた。

杉原が友達を家に連れてくることはほとんどないそうだ。


「うわぁ、ちっちぇ」


杉原は赤ん坊を見てうっとりとしていた。

僕はお姉さんに聞いた。

やはり兄弟は似ているものだ。

ふわりと笑う顔がとても似ている。


「お名前はなんて言うんですか」

あきって書いて、『しゅう』ってゆうの。」

「秋ちゃん、可愛らしいですね。」

「うち、みんな季節の名前だから。私の名前も冬香だし。」


赤ん坊と遊んでいる杉原に目をやって、幸せそうにわらっていた。


「夏来って学校でもあんな?」

「え?」

「夏来ね、中学校までずっと学校嫌がってたんだけど」


お姉さんは信じられないとばかりこちらを見ていた。

僕も信じられなかった。

杉原はいつも、明るくて社交的だから。


「星司!見ろよ!めちゃくちゃ可愛いよ!」


杉原に呼ばれて僕は赤ん坊のそばによる。

手足が短くてぷにぷにできゃあきゃあと笑っている。


「人見知りしないんだな」

「それな!姉ちゃんに似たんだな!」


僕は、赤ん坊をみる杉原に見とれていた。

いつもに増して優しい顔だった。

きっと杉原が父親になったら、すごい優しい子になるんだろうなって思った。

料理上手で社交的で、優しくて。

この人と家族になったらきっと楽しい。

辛いこともきっと一緒に共有してくれて、それから家族の時間を誰よりも大切にしてくれそうだ。

そんなところが僕の気持ちを大きくさせた。

あぁ、僕は杉原が好きなんだと。

この表情が僕は一番好きなんだと。


「俺も子供欲しいな~!可愛い!!」


はしゃぐ杉原をよそに、僕は一瞬びくりとした。


「星司?」


そして、杉原に呼ばれて気づいたんだ。

僕は急に現実に引き戻された。

それから虚無感が僕を襲った。


(そうだ僕には・・・・無理なんだ)


気がついてしまった。

僕には、彼を幸せにすることができないことを。


(どんなに頑張っても、僕には無理だ)


君に家族を作ってあげれないんだ。

なんでこんなに虚しいんだろう。

なんでこんなに苦しいんだろう。


「星司?大丈夫?どうした!?」


杉原が僕に近寄った。

その優しさが胸にしみた。


「大丈夫。」

「大丈夫じゃないだろ?俺に話せる?」

「本当に大丈夫だから」

「無理するなよ?」


僕は杉原に思いっきり抱きついた。

好きだと気づいてから僕らの運命を突きつけられた。

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