第6話



***



小学校の時、大親友だった優太が、僕は大好きだった。

いつも二人は一緒で、僕に優太は笑いかけてくれてたんだ。


優太は僕が笑うと一緒に笑ってくれて、僕が泣くと慰めてくれて、そして一緒に泣いてくれた。


僕ははじめは無口で顔にもあんまりでないタイプで。

優太に会うまでは今と同じように人形って馬鹿にされてたんだ。

自分の気持ちと表情がうまく連動されなかった。

心から楽しいとか嬉しいとか感じることがなかなかなくて、そんなときどんな顔をすればいいかわからなかった。

それを、優太は庇ってくれて泣いてくれた。

それに、僕が泣いたり笑ったりできなくても無理強いをしなかった。


「心から泣きたい時に泣けばいいよ、心から笑いたいときに笑えばいいよ。」


そう言って貰ったとき、本当に心が軽くなったんだ。

大好きだった。

本当に大好きだったんだ。

優太がいなくちゃ笑い方がわからない。

優太がいなくちゃ泣き方がわからない。

だから僕は今、どうしたらいいのかわからないんだ。


僕は今、どうしたいんだろう?

僕は泣きたいのか?笑いたいのか?


「いつも泣きそうな瞳をしてるよ、お前」


そう杉原に言われたとき、僕は自分は泣きそうなんだと知った。

それから杉原に抱きしめられた。

あのときの温もりが優太に似ていた。

一度感じた、あの心の軽くなったあの感覚が。


僕はあの時・・・・・・どうすればよかったのだろう。



***



「なあ、星司」


弟の月哉が僕に話しかけた。

月哉は僕とは逆で、社交的で明るい性格だった。

杉原ともすぐ仲良くなったし、二人とも運動が好きだから、よくそういった話をしていた。


「どうした?月哉」

「あのさ」


月哉は珍しく神妙な面持ちで僕に話しかけた。

僕は月哉を見る。

月哉は少しうつむいたあと、顔を上げた。


「夏来さんに、話さないの?優太のこと」


僕は月哉を見た。

月哉の目は、揺らいでいた。

僕は目を少し伏せて聞いていた。


「夏来さん、本気で星司のこと好きじゃん。

俺だって最初は男が男を好きになる意味とか全然わかんなかったけど、夏来さん見たら星司の対応もちょっとどうかと思う。」


月哉は少し気まずそうに僕に言った。

僕はため息をついた。

月哉も僕から目をそらした。


「俺、夏来さんなら優太を越えられると思うよ。」


月哉はそう言って俺のそばを離れた。

僕は頭のなかを振り替える。

青柳の優しい笑みが頭によぎる。

それから、優太との思い出がよぎる。

ふと写真たてに飾っていた優太の写真をみた。


そもそも、なんで青柳は僕が好きなんだろう。

なんで僕が泣きそうだとわかるんだろう。

わからない。

でも、心を開きかけていることは自分でも気づいていた。

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