第5話



「杉原の彼女って誰?」

「彼氏かも知れないじゃん。」

「あー、まじかー。」


最近この話題で持ちきりだ。

杉原は友人も多かったし人気者だったから、誰もが杉原の恋人に恋人に興味を持っていた。

噂では他校の人だろうとか、大学生だろうとか色々言われていたが全部外れているのが逆に面白い。


しかし気づかれるのも時間の問題だろう。

そんなことはお構いなしに、杉原はたまにお弁当を片手に僕のところにやってきた。


「今日お昼持ってきた?」

「いや、持ってない」

「作ってきたんだ。食べてよ。」


なんだそれ。なんて一人で突っ込みをいれる。

そのへんの女子よりもよっぽど女性らしい。

中身は野菜と肉とバランスの良い見た目だ。


「へへへ、美味しい?」

「・・・・・うん。」


杉原は料理が上手だった。

親は単身赴任中で、家事をすることが多いかららしい。

そのうえ料理は好きらしい。

そんなのんびりとしてた日の放課後に事件は起きた。


僕は図書室にいた。

その帰りにA組の前を通りかかったんだ。

そこにはこの間杉原にフラレた荒木とその他の男が杉原を囲んでいた。

何となく怪しい感じと危険な感じはした。

僕は気になってこっそり聞き耳をたてた。


「杉原、お前青柳と付き合ってんの?」


僕はびくりとした。

杉原は頷く。


「そうだけど。だから何?」


杉原はいつもとはうって変わって強気な言い方をした。


「お前、俺をふった後に青柳と付き合ったわけ?」

「だめなの?俺、本気で好きなんだけど」


杉原のその答えに納得がいかないのか、荒木は声を大きくした。


「あんな人形なんかのどこがいいんだよ!?

やめちまえよ!あいつにフラレた女を見てきたろ!?」


そう言って杉原に迫る。

腕を捕まれて迫られている。


「あんな男やめちまえよ。」


しかし止める気は起きなかった。

あいつのゆう通りだ。

僕のどこがいいんだろう。

僕は友達も少ないしあだ名も最悪だ。

それに僕は誰かに愛されたくないんだ。

失うのが怖いから。


その時だった。


「青柳を悪く言うのやめて」


杉原は言った。

力強い言葉と瞳で荒木を睨み付けていた。

それから自分をつかむ手を引き剥がした。


「青柳は人形じゃない」


しかしそう言った杉原の目は泣きそうだった。

でも、僕も思わず胸が痛くなった。

なんで僕をかばうのだろう。

男子たちは杉原を囲む。


「庇うのかよ。まあいいぜ、体でわからせてやれば。」


これはまずい気がする。

そう思い教室のドアを開けた。


「なにしてんの?そいつ、一応僕と付き合ってんだけど」


杉原は僕を見て驚く。

男子たちも僕を見て驚く。


「杉原、帰るぞ」


その一言だけ言って、杉原のかばんを持って手を引いた。

慌てる杉原をよそに僕は歩き出す。

下駄箱の前まで来たときやっと歩みをやめた。

そして、思ったことを言った。


「なんで僕をかばった」

「え?」

「僕は杉原になにもしてない。

君を好きになれない。かばわれる資格もない。

なんで君は僕が好きだなんて言えるんだ。」


杉原は驚いた顔をした。

それからいつもの優しい笑みをして、それからそっと僕の手をとって大切そうにした。

手の温もりが妙に僕の心臓をしめつけた。


「いつも泣きそうなをしてるよ、お前」


杉原はぎゅっと手を握る。

僕は首を横に振った。

そんなはずない。そんなの、違う。

今度は杉原の腕が僕の背中にまわる。


「なんでそんな寂しそうなの」


杉原の方が小さいのに、体全部を包まれている感覚だった。


「お前がなんで人を好きなることを拒むのかは無理に聞こうと思わない。

でも、いつもお前は寂しそうに見えるよ。

それがいつも気になって仕方がなかった。

だから俺、お前の力になりたいって思ったんだ。」


杉原は顔を上げた。

似ていた。

あの人に・・・・・・。

もう一生会えないあの人に・・・・・。


「俺を好きにならなくてもいいよっていったらそれは嘘だけど、俺はいつまでも待つよ。

お前が俺を本気で嫌うまでずっと待つし。」


何故だ。

なんであの人にこんなに似てるんだ。

なんで僕のそばにいるんだよ。

僕はなにもしてない。

杉原の思いに応えることすらも。


でも不思議な感覚だった。

何故か君のとなりは心地よかった。

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