第3話



杉原夏来は、人気者あることを僕はあとから知った。


中性的で整った顔立ち。困っている人を助けてくれる優しさ。

明るくて、ムードメーカー。

男女問わず誰とでも仲良くできて、しかもそれがとても自然でスマートだ。


だからなのか、男でも女でもみんな杉原が好きだったし、きっと僕のように告白をされることもあると思う。

それでもへんな噂にならないのは、杉原の言葉と行動がとても誠意的だからだろうとここ数週間で把握した。

ずっと読書に気をとられすぎていたせいかは知らないが、杉原もなかなかの本好きで杉原の存在を知ってから図書室で会う頻度が増えたような気もした。

杉原はいつも目が合うと笑いかけてくれた。

それがわざとらしくない自然な顔で、僕はそんなに嫌な気はしなかった。


ある時の放課後の教室。

たまたまだったんだ。

たまたま僕が忘れ物をして教室に戻った。

廊下を通りかかるとA組の教室に誰かいた。

杉原だ。

杉原の向かいに誰かいた。

男だった。顔はあんまり見えない。後ろ姿だった。

肩幅の広い背中に短髪。身長も高い。

僕は思わずドアの少し離れた場所から見た。

声が聞こえる。

その声色で、その男が野球部の荒木だとゆうことがわかった。


「夏来、あのさ」

「なんだよ改まって。どした?」

「俺、夏来が好きだ!!」


男らしい潔い告白が聞こえた。


(・・・・・え??)


僕は思わず息が止まる。

待てよ、杉原は男だよな?なんて自分の心に聞き返す。

そして一言。


「ごめん、荒木。俺さ、好きな人いるんだ」


その顔は本当に、切なそうな顔でそう言った。


「俺、だからお前の気持ちには応えられない。その人だけが本当に好きなんだ。」


ちらりと見えた杉原の顔は優しさに満ちていた。

そして一瞬、杉原と目が合ってしまった。

男は荒木なにも言わずに杉原に背を向けた。


(やばい、こっちに来る!)


廊下だから隠れる場所もなく、とりあえず平然を装い通りかかったふりをしようと教室から離れたが、まさかのタイミングよく荒木と衝突した。

今回は僕がよろける形になった。

・・・・・・またデジャヴ。


「お前・・・・、青柳?」

「そうだけど」

「まさか、見てたのか?」

「は?」


その一言に、心の中はかなり焦っていた。

なにも知らないふりをした。

荒木はばつの悪そうな顔をして、廊下を歩いていった。

杉原が僕に近寄る。


「またデジャヴ。」

「・・・・・・。」

「ねぇ、俺らのこと見てたでしょ」


杉原が僕を見る。


「意外だな。まさか青柳が俺が告白されるところ覗き込むなんて。そんなの興味なさそうだし、この間は女の子に付き合ったところで君を好きにはならないって突き放してたのにさ。」


僕は目のやり場に困った。

杉原がいたから、興味本意で覗いただけだった。

ただなんとなく杉原が気になった。

深い意味なんてないのに、そう言われてしまうと弁解しづらい。


「ねぇ」


杉原は僕を教室に招き入れた。


「俺の好きな人を教えてあげよっか」


誰もいない放課後の教室。

僕を見つめる杉原の瞳は真剣だった。


「青柳星司。それが俺の好きな人の名前。」


僕はびっくりし過ぎて思考が停止した。

告白されたと気づいたのはたっぷり3秒おいたあとだった。

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