第1話



「本当に最低!」



この言葉を女に投げ掛けられたのは一体何回目だろうか。

僕はうんざりしながら平手打ちされた右頬を押さえた。


「アンタ、女の子と付き合うって意味わかってんの!?

メールも電話もしない、デートもしないって!」


放課後の教室。

少し薄暗く、僕と女以外誰もいない閑散とした場所。

女の顔は実に不細工で、感じるものは何もない。

泣きながらそんなこと言われても、と冷めた目で女を見ていた。


「僕は最初に言ったはずだ。付き合ったところで君を好きにはならないって。

それでもいいって言ったのは君だろ」

「そうだけど!!でも、少しくらい好きになってくれてもいいじゃないの!」


こんなような茶番劇を僕は人生で何回繰り返せばいいのだろうか。

うんざりとする。

僕は女に踵を返した。


「本当最低ね!顔色ひとつ変えないで!」


僕は振り向いて睨み付けた。


「今言ったばかりだろ。僕はちゃんと最初に言ったはずだ。」


人生で何回繰り返したかわからない、女との別れ。

何故僕と付き合いたいと思うのかもわからない。

付き合って何がしたいんだ。

大体の女はみんな「顔」で僕を判断する。

それから「声」で判断する。

付き合うとゆうのは好きな人同士が付き合うものであって、僕はちゃんと忠告しているはずなのに、いつも理不尽なことを言われ嫌われる。

告白は最初にいつも断っているし理由も言っている。

それでもいいと言うから勝手にしてもらってる。

最初こそ愛想笑いもしていたものの、そんなことにはもう疲れてしまった。

冷ややかな目で女を見つめた。

すべてを凍らせてやる勢いで空気を冷ましてゆく。

誰も近寄るな。

僕のこの何もない凍った世界に。


「さよなら!!」


女は教室のドアを開けた。

その時だった。


「うわぁぁ!」


女が誰かにぶつかった。

ぶつかった相手は小柄な男子生徒だった。

名前は知らない。

叫んだ声は少し高めであった。

廊下には、ぶつかった拍子に落とした日直日誌があった。

男子生徒は日誌を拾ってほこりをはたいている。


「はぁ!?なんでアンタがいるの!?杉原!!」


女はすごい形相でその人を見ていた。

すかさず相手も言い返す。


「そっちこそなんなんだよ!せっかく待っていてやったのにいきなりドア開けんな!!」

「なんで待ってるわけ?人がふられるのみて楽しいの!?」

「ふっざけんな!!俺は日直なんだよ!」


そうゆうと、

女は相手を突き飛ばして真っ赤な顔をして走って行ってしまった。


「すまんな、邪魔して」


服についた埃を落としながら、男子生徒は僕に言った。

それから教卓に日誌を置いてこちらを見ていた。


「大変だな、青柳君」

「なんで僕の名前を知っている?」

「だって結構有名じゃね?クールで無口で笑わない、アイスドール。」


にやっと面白そうに笑ったその人を見て、僕は驚いた。

僕を見て、顔をしかめない。

普通の人ならすましてる僕を嫌がるのに・・・。


「俺は2年A組の杉原夏来すぎはらなつき。青柳君はC組だよな」

「2年C組、青柳星司あおやぎせいじだ。」


たったそれだけしか会話をしてないのに、杉原の雰囲気が柔らかくて僕は自然と言葉を発していた。


「なんだ、喋るんじゃん」


ふわっと笑ってそう言った。

それもそのはすだ。

僕は学年でも無口で有名だった。

それに加えて笑わず怒らずでついたあだ名は「アイス人形ドール」。

目付きの悪いせいか、色白なせいか、空気を凍らせて誰も近寄らせない。

それでも別に困ってはいなかった。


「じゃーね!」


杉原は元気に手をふって教室を出ていった。

今日まで自分の周り以外知らなかった空気感に違和感を覚えた。

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