夏とアイスドール

大路まりさ

プロローグ

僕は、氷に覆われた暗い部屋にいたんだ。


そこは寒くて、冷たくて、真っ暗だった。

立ち上がろうとしても上手く立てなくて、体は寒さで固まってしまっていた。


触れられるのは氷だけで、何も聞こえない。

誰かいないかと叫んでも、自分の声がただ虚しく響くだけだった。


膝を抱えて座り込む。

そして、膝の頭に顔を埋めた。

不安感が全身をくるむ。

体を縮めていないと、いつか肉体がなくなってしまうような気がした。

体を丸めていないと、寒くて。


「寂しい・・・・」


いつもなら絶対に言わないこの言葉を、僕は呟いた。

何もない空間で、そう呟いた自分の声を聞いたら、なんだかんだ目の奥がじんとした。

なぜだろう、涙が出そう。


そんな時だった。

太陽の光が見えた。


「こんなところにいたの?探したんだよ。」


優しい口調で聞こえたその声に、僕は目を大きくして驚いた。

顔が見えない。

でも、その声はとても懐かしくて自分の求めている声だった。


「ひとりじゃないよ、だから、泣かないで」


そんな言葉が聞こえてから、僕は自分の頬が濡れているのを知った。

一筋の光を便りに、僕は立ち上がった。

そして少しずつ、少しずつ歩き始めた。


「冬が終われば春が来るよ。そして夏になる。必ず氷は溶けていくんだ。」


優しい言葉に、僕はどんどん涙が溢れてくる。

なぜかはわからない。

ただ、さっきまでの不安は消し飛んでいって、それから安心感が身体すべてを包んでいた。


「おいで」


その言葉に導かれて、僕は歩く。

思わず子供のように声を出して泣いてしまった。

光は消えずに、ゆっくりと歩く僕を待っていてくれた。


そして光の元が見えた。

そこには優しくて温かな笑顔の君がいたんだ。


僕は走り出した。

そして、君に抱きついた。

君は僕をぎゅっと抱き締めてくれた。


夏の日差しが見えた。



***

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