苦悩する俺!

 ◆◇◆◇◆◇



 いや……。

 マジでどうしたらいいんすか……。


 昨夜、親友とキスをしてしまった。

 いや、あれはキスなのか?

 まるで幼女が大人に愛情を示すような、力づくのやつだったし。

 キスカウントしても、キス業界に失礼にならないのかすら、わかんねえ……。


「はあ……」


 誰かに相談したいけど無理なんだよなぁ。

 だって今まで悩みを相談するのは、いつもこいつだったし。


「はい。なにか?」


「ナンデモネー……」


「なんでもないはないでしょう。さっきから睨んできておいて……。ああ、そういうことですか」


 勝手に納得すると、スバルは前を向いて手元の単行本に目を落とした。

 駅から高校までの道。

 人通りは多いけど、器用に避けているんだよな……っつか?


「そういうことってなんだよ?」


「奏多くんが私のことを意識してくれているということですが?」


「ゴッド!!」


 どうしてそーいうこと、恥ずかしげもなく言うかなこいつ! 思わず神に祈ってしまったわ!

 というか当然だろっ!

 昨日あんな、あんなことしといて!

 うっわーーーー思い出しちまった、どうしたらいいんだあああぁっ!?


 ――そして振り出しに戻る。



……


…………



「ねえスバル、なんでこいつ死んでんの?」


「さあ、知りません」


 季枝きえが机に突っ伏した俺をつつきながらスバルに問うが、スバルはそっけなく返すだけだった。


「奏多くん……」


 ゆゆの悲しげな声が聞こえる。

 でも俺はちょっと、ゆゆにさえも気遣う余裕がなく、そのまま一日を寝て過ごすのだった――。


 ちなみに昨日因縁をつけてきた茹橋ゆではしは、一度も絡んでこなかった。


 そして放課後。

 帰るためにのそりと起き上がると、前の席のゆゆが同じタイミングで振り返った。


「奏多くん、大丈夫?」


「あ、うん。まあ……」


「そ、か」


 なんとなく気まずくて、ゆゆのことを真っ直ぐに見れなかった。

 同じくゆゆも元気なくうつむいていたけど、突然、決心したように顔を上げた。


「奏多くん、今からって空いてないかな?」


 さまよっていた視線が、目の前の彼女へたどり着く。


「ん? 俺、誘ってもらってるってこと?」


 彼女は控えめにうなずく。


 なんで俺、ゆゆに誘われたんだろ?

 あっそうか。二人きりとは言われてないもんな。

 んじゃ、あいつもいるはず。


 4列先の席を見ると、季枝がビシッと中指を突き立ててきた。

 おいてめえ。


「もし奏多くんが空いていたら、今日、きーちゃんはひとりで帰るって。あのね、二人で話したいんだ」


 あの中指立ててるちっこいやつ、気ぃ使ってくれてるんだな。

 お返しに、同じように中指を立て返しといた。


「そーいうことで、ど、どうでしょう?」


 アホがうるさくわめくのを無視して、赤面して上目遣いで俺を伺うゆゆ。

 そんなのもちろん、絶対OKに決まって――。


 どんっと、俺たちの間に腕が割り込んだ。


「ごめんね、つぐみさん。今日は私が奏多くんと約束しているんですよ」


 机に手をつき、上からにっこりと笑顔を降り注ぐスバル。

 えっなにそれ。初めて聞いたけど?


「先約があったんだ。そ、そっか。あの、あたしの用事はぜんっぜん大したことないし、いつでもいいんだ。じゃあ二人とも、またね!」


 真っ赤な顔で不器用に微笑むと、カバンをつかんでゆゆは教室を飛び出した。


「えっ。ちょっと、ゆゆぅ!?」


 季枝が慌てて追いかける。


「おい! ゆゆになんて言ったこのデコ助野郎!」


「私との先約があるのでごめんなさい、と言いました」


「なんだスバルかよ! じゃあ仕方ない! 待って、ゆゆーーーっ!!」


 季枝が教室を出て行くと、スバルが俺を責めるように見据えた。

 冷や汗が止まらない。


「じゃあ我々も行きましょう」


「えっ、どこへ? つか、約束なんて知らねーすけど」


「うちに来てください」


「家っ?」


 いやいやいや、昨日の今日だぞ?

 ちょっと距離感とか、いろいろ考えたいんだけど!?


 スバルはそんな俺の思考を読んだように、目を細める。


「部屋なら今までもよく来てたでしょう、何か不都合が? もしかしてやっぱり意識を?」


「あーーっ、行く行く! さっさと帰るぞ!」


「ええ」


 なにこいつ、前からこんなんだっけ?

 いや、こんなんだったわ。


 はあ、腹をくくるしか……ない。

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