ダブルデート

「ってわけで、今日は街に行こうと思いまーす!」


 楽しそうに音頭を取るのは、栗生くりゅう季枝きえ

 もちろんこんなの、聞いてない。


「今日はっていうか、俺ら一緒に出かけたことないだろ」


「ねえ、スバルも来てくれる?」


「ええ、いいですよ」


「ほんと!? 良かった!」


「いや俺の話も聞けよ!?」


 なんか勝手に進められてるし。

「どういうこと?」とゆゆに目で問うと、苦笑いして首を振った。どうやら季枝の思いつきらしい。


「あんたはどーすんの? 別にあんたが来なくても3人で遊びに行くけどねっ」


 ゴスンゴスンと季枝に机の脚が蹴られる。

 がさつの極みかよ。


「別に行かないとは言ってねーだろ」


「仕方ないわねー。じゃあ放課後、さっさと帰る支度してよね!」


 口ではそう言いながら、うれしそうに自分の席に帰って行った。

 なんっか、腑に落ちねー!




  ◆◇◆◇◆◇




「急に出かけるって、大丈夫なのかースバル。勉強とかあるだろ?」


「放課後に友人と遊ぶ時間くらいは捻出できますよ」


 すました表情でスバルは答える。

 は? 何なのかっこいいんだけど、むかつく。


 その辺にちょうどいい季枝がいたので腕を捕まえる。


「なあなあ。この歩く陶器、言ってること気持ち悪くない?」


「は? あんたみたいな歩く……人間? の方がよっぽど気持ち悪いわよ!」


「“歩く人間”ってなんだよ、普通の人じゃねーか!」


「つーん」


 くっそー、この小さい子は都合が悪くなると逃げるもんな!


「でもスバルが街で遊ぶイメージないかもー?」


「普通に行きますよ、つぐみさん。主に本屋ですが」


「あ、それなら想像つく!」


 楽しそうに会話するゆゆとスバル。

 くそ、楽しそうじゃねえかよ……。

 真剣に耳を澄ませていると、季枝が隣から袖を引いてきた。


「ど、どうしたのよ奏多、急に黙って」


「つかさー、なんでこの並びなんだ」


 俺と季枝の後ろに、スバルとゆゆというフォーメーション。

 いや、俺が季枝を捕まえたからかもしれないけど!


 後ろの二人が、何をどんな顔で話しているのかめちゃくちゃ気になる。

 ゆゆの笑うかわいい声が聞こえてくるたびに、嫉妬で叫び出しそうだ。


「ねえ、顔。あんたバーサーカーみたいになってる」


 鼻先を、つんと人差し指が押し付けられる。

 驚いて隣を見ると。


「ぷっ、あはは! ねえなにバカみたいな顔してるの? ああ、みたいじゃなくて、バカだった」


「季枝ぇ……」


 季枝が腹を抱えて大笑いする。

 おかげで眉間のしわは取れたが、代わりに血管が千切れそう。


「あはは! まあでも、むすっとしてるよりもそっちのバカみたいな……バカな顔のほうがいいよ。バカなんだからさ!」


「バカバカ言うな! おまえなんて俺様の手の中なんだからな!」


 彼女のバッグからはみ出ていたスマホを引き抜き、上に掲げる。

 季枝が手を伸ばし、ぴょんぴょんと飛びつくがスマホには届くわけがない。


「あっ、ちょっと! やめろ! おいバカ!!」


「わははは! 踊れ踊れ〜」


「やめてよバカナタ!!」


「おまえっ、バカと俺を融合させんじゃねーよ!!」


「ぎゃーす!」


「ぎゃーす!」





「どうしたの? 前、気になりますか?」


「え、ううん。そんなことないよ!」


「はは、そうですか」


 後ろでスバルとゆゆの間にそんなやり取りがあったこと、俺には知るよしもない。




  ◆◇◆◇◆◇




 季枝が街の事情に詳しいのが意外だった。

 渋谷の新しいショップを見たりアイス食べたりして、楽しい時間がすぎる。


 ちょっと品揃えが変わった本屋にも行った。スバルの目が珍しく光っていた。

 ゲーセンでぬいぐるみを取ってあげると、ゆゆは大喜びして、取った俺じゃなくて季枝に飛びついていた。季枝にしたり顔をされてキレそうだった。


 遊んでいると日が落ちるまであっという間だ。

 俺たちはまた2列に並んで外を歩いていた。

 行きと違うのは、隣にゆゆがいること。

 気づけば自然に談笑していた。


 告白したあと、学校でも少し固かったゆゆだけど、今日遊んでからはいつもの調子に戻ったようだ。

 まさか季枝は、これを狙って……?

 後ろで季枝が叫ぶ。


「まだ帰りたくないー! ねー、カラオケ行こーよっ」


 ……考えすぎだったな。


「あっ、あたしも行きたいっ」


 ゆゆが足を止めて振り返った。

 お、ゆゆは歌う子なんだ。聞きたいな、歌声。


「俺も別にいいよ。スバルはどうする?」


「そうですね。歌わなくてもよければ」


「じゃー決まりっ! カラたついこーっ!」


 季枝が俺とゆゆの腕に飛びついた。後ろではスバルが苦笑している。


「ごーごーれっつごー、ふりーたーいむっ!」


「高校生の味方ー、ふりーたーいむっ!」


「「ああ、ギャルの味方、それはカラ達〜〜」」


 季枝とゆゆがよくわからない歌を口ずさんでいる。

 無邪気な彼女たちを見て、こんな日々が続けばいいなと思った。

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