友だちになろうって話

「ゆゆぅー!!」


 席に戻ると、栗生くりゅう季枝きえつぐみに飛びついた。

 茹橋たちに囲まれた鶫を助けたくてモジモジしていたところを、スバルが回収していたらしい。


「鶫さん大丈夫ですか? 最近、茹橋くんたちによく絡まれていますね」


 スバルが問うと、鶫は力なくうなずいた。


「うん、急に話しかけられるようになって。茹橋くんたち悪気はないと思うんだけど、ちょっとだけ困ってる」


「ちょっとだけ? ゆゆは優しすぎるからつけこまれるんだよ! だからあたしがガツンと言ってやるって言ってんのにー!」


 栗生くりゅうはハッキリと嫌がってるけど、鶫が事を荒だてないようにしているようだ。


 茹橋は完全に格闘家タイプだから、栗生が噛み付いて怒らせたときのことを考えるとゾッとする。栗生が暴走するのだけは止めたい。


 困ってスバルへ視線を向けると、チラチラと謎のアイコンタクトを送られる。


 …………あっ!


「だったら、俺たちが壁になるってのは?」


 俺が提案すると、鶫と栗生は同じように首を傾げた。


「女子だけでいると声もかけられやすいけどさ、男といれば向こうも今までみたいに手を出して来ないんじゃね?」


「そんな。瀬戸くんたちを巻き込むわけにはいかないよ」


 鶫が顔の前で小さく両手を振る。


「そうだよ、瀬戸たちには関係ない。これはあたしとゆゆの問題だからっ!」


 栗生も小さな胸を張る。


「ふーん、栗生は自分でなんとかできるのか?」


「うっ……ま、まあ、そのうちね!?」


 強がっているが、視線が泳いでるぞ栗生。


「そうかよ。だったら早めになんとかしてくれ。あいつらの話、不快すぎて聞きたくねーんだわ」


「えっ!? せ、瀬戸もそう思う?」


「あー。令和に下ネタも人をおとしめるギャグもジェンダー差別も流行んねーだろ」


 鶫に迷惑をかけるのもそうだけど、スバルを揶揄したのは絶対に許さん。


「そ、そうだよね! なによ、あんたわかってんじゃんっ!」


 目を輝かせ、うれしそうにピョコピョコ飛び跳ねる栗生。

 あ? こいつもしかして、チョロ……案外素直なのか?


「ね、ゆゆ。瀬戸たちに協力してもらおうよ。あたしヤだよ、ゆゆがあいつらの仲間だと思われるの! それにゆゆだって暴力振るうヤツは大っ嫌いじゃん!?」


「う……。でもこんなこと、お願いしていいのかな。スバルもいいの? 無理してない?」


「もちろん構わないですよ。ただ『友だちになりませんか』という普通の提案ですから」


 スバルの微笑に、鶫はやっとホッとした表情を見せた。


「二人ともありがとう。じゃあ改めて、つぐみゆゆです。ゆゆって呼んでね」


「あたしは栗生くりゅう季枝きえ。あ、あたしも季枝でいい!」


 二人の自己紹介を聞き、俺たちも顔を見合わせた。


「あー、じゃあ俺は瀬戸奏多。奏多でいいよ」


宍戸ししどばるです。呼び捨ては苦手だから、さんづけさせてもらうけど、誰に対してもそうだから気にしないでもらえると助かります」


「別にいいけど。そういえばスバルって、瀬戸にも敬語なの?」


「ときと場合によりますが、基本は敬語ですね」


「なにそれ。あんた王子って呼ばれてるけど、顔だけじゃなくて所作までガチじゃんっ!」


 栗生にまじまじと見つめられて、スバルは照れて顔をそらしていた。


 そんなやりとりを眺めていると、腕につんつんっと人差し指によって刺激された。

 隣を向けば、鶫が嬉しそうな笑顔を浮かべる。


「でも、ほんとにありがとう。ふたりみたいな優しい人と同じクラスになれて良かったな。これからよろしくね、奏多くんっ」


 えっ…………尊っ!?


 ねえ、俺の女神ミューズに、割と全力でタマを取られそうなんですが!?

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