第11話 小梅巡査長
小梅巡査長
丸山の供述調書をまとめた小梅巡査長が言うには丸山は口こそ悪いが捜査には協力的だそうだ。
「あれは観念した被疑者の行動様式だね」詰まるところ自分にかかっている疑いを全て認識した上で自分の知っていること、事実を全て答えているようだ。
あの丸山という教団幹部が答えた内容は緻密なトリックとは言えないあまりにも綱渡りで場当たり的な犯罪だった。丸山は動機も含めこういった供述をしたそうだ。
「高校1年の時に段々周りからハブられた。だがその発端はアイツが2年前から急に俺を避け始めたからだ。俺は当時自分でロシア人とのハーフと
「なるほど、逆恨み。っと」
「木っ端のサツ官の癖に生意気な… 」
「内容を続けなさい」ペンで机を叩く
「うっ」咳払い「まあいい。高校卒業して俺は西カトに入信した。自分がオタク趣味があったから秋葉原みたいな場所でオタクを言葉巧みに入信させて功績を積み上げていった。だが支部長クラスになるには今ひとつ足りなくてな。八王子支部建設計画の時に偶然駅でアイツを見かけてな。色々して住所を突き止め利用できる時を待っていた」
「それで殺した。っと」
「殺しではない。ポアと言ってる。お前達警察もある程度は把握してるだろうが我が西カトは教団にとって都合のいい殺しをポアと言ってて、ポアした相手が邪教であればあるほど神聖なものとしている。アイツの両親はカトリックから抜け出したプロテスタントと、医者だった。教団的には感情的に最高に邪なるものだった」
「なんで医者がポイント高いんだ」
「医者は科学という神聖から一番遠い上、それによって奇跡を否定するってのが上の考え方だからだ。それから本部にアイツのあること無いこと言い触らして教団にとっての危険人物に仕立て・・・ 」
「事故に見せかけて殺したと」
「そうだ」
具体的にこの事件は事故に見せかけた殺人で教団員の中でもそういった後ろ暗い事を専門に行う部署がありそこのメンバー達と犯行に及んだらしい。
まず現教団支部の建設のために地上げを行うつもりで八王子を訪れ、たまたま駅で染谷さんを見つけた丸山が彼を利用しようと思いついたらしい。一般の教団員には要注意邪教ととして、見張らせて情報を集め行動パターンをおおよそ掴む。事故に見せかける際の場所もいくつかピックアップしておく。その場所ごとに事故発生理由を用意しておき、決行場所が決まるまで同時進行で下準備を進めておく。
今回の415号線でのシナリオは事件と判明する前と同じく、道路沿いの崖から大岩を落として、それに驚いた車に轢かれると言ったものだ。もともと現地の調査段階で崖の上に注連縄が巻かれた巨大な岩があったため教義的にも破壊出来たらなお良しといった具合らしい。
実行犯は普段から慈善事業を行う中こういった際に教団との関係性が全くない無職やホームレスを金で勧誘していて犯行に及ばせる。今回の実行犯も同じ。ことが明るみに出た為すでにシャバに出ていた畠山は再び逮捕された。
事故現場に誘導するために彼の趣味であるアーケードゲームを利用したらしい。当時は世界的感染症が流行したせいでどこのお店も閉まっている中、娯楽施設でもゲームセンターやライブハウスなどのごく一部施設が地方自治体の要請を無視して開店し始めていた。その中で青梅のかなり西にある個人経営ゲームセンターの社長が教団員と知り合いで無理を行って要請解除の2か月以上前から営業を再開させたらしい。社長はその知り合いが教団員で合った事すら知らず、単に知り合いやその友人たちが遊ぶ場所が欲しい事、社長自身も売り上げが欲しいことから応じたらしい。
あとは415号線の事故現場に誘導するだけ。青梅のゲームセンターに向かうためには大通りの幹線道路を使う方が楽だが、幹線道路の迂回路として415号線は利用されるため、使ったとしても距離として1km増えるかどうかの道である。染谷さんは在宅で仕事していて見張り役から毎週同じ日の同じくらいの時間にそのゲームセンターに向かうことが判明していた。彼が家を出た事を見張りが丸山に告げ、幹線道路と415号線の分かれ道に彼が来たら工事現場の交通誘導員の振りをした教団員が415号に誘導する。それをそのまま現場のメンバーに伝えて撤収。そのまま現場メンバーが犯行に及んだ。
現場では彼が来るタイミングで宅急便を装った教団員がトラックを僕の家の前に停め、見通しを悪くしつつお母さんを呼び宅配間違いなどのトラブルを装って時間を稼ぐ。他の実行犯が庭に忍び込み小さかった僕を驚かせ母親の元に行かせてさらに注意を削ぐ。
そのまま自動車で染谷さんをひき殺すのと同じくらいのタイミングで岩を落とせば、母親と言う目撃者が生まれてよりシナリオ通りの事故である事が印象付けられる。もともと地上げの一環で心霊現象に見せかけての嫌がられ行為を周辺住居にしていて、引っ越す家族もいたためより事が大きくなればよかった。ただワイドショーなど大きく取り上げら地価が下がる反面バレる可能性も増す気がして肝を冷やしたそうだ。
車を運転していた畠山容疑者は子供が飛び出してそれを染谷さんがよけた後に子供の元へ向かったらしい。そのまま彼を轢き殺すために速度を上げて跳ね飛ばした。実際驚かされた僕は道路に飛び出して、それを染谷さんは避け、大丈夫かと振り返った際に速度を上げる車を見て無我夢中で走り出したと染谷さんは言った。実は畠山容疑者はもしもの時のためにこの話を持ち掛けられてた後に前金で小さい録音機器を購入して、自分への命令や相談内容を全て記録していたらしい。しかもそれをもしもの保険のため決行日当日に自身の部屋にかくして今も保存していた。それが証拠の一つとしてかなり有用だったらしい。丸山が言うには実際車にはねられた直後位に岩が落とされ、もともとそれで殺すつもりはなく、たまたま染谷さんの近くに落ちたらしい。
当時の僕は跳ねられた彼の腕から出され彼自身の言葉でお母さんの元へ走ったらしい。染谷さんはそれを見て動けなくなった。ただ意識は朦朧としていたらしい。
気が動転している母親に宅急便の振りをした教団員が自分は救助するので119番通報をしてほしい促し、母親は子供を抱いて家の中の電話に向かった。それを確認してトラックの荷台へその場で回収できる証拠と教団員を乗せる。もともと荷台にいた丸山は畠山に再度指示をする。そのまま倒れる彼の元に行き、落ちた岩の破片で腹を抉ってとどめを刺したらしい。
小梅巡査長から色々聞かせてもらった後に
「本当はダメなんだけど、横田課長からのお願いじゃあ断れないから。それと口外禁止。本当に守ってくれよ」
「もちろんです」
「頼んだよ。まぁ私自身当事者の君自身に知る権利があると思うけど法律上はアウトだから」
「ありがとうございます。あとこれ横田さんから預かってきた約束の物です」
「お」小梅巡査長は封筒を開けて中の色紙を半分出して確認した。そのまま明るい表情で「こちらこそ、こんないい物を用意してくれてありがとう。子供が大ファンでね」彼はゆるりと緩慢な敬礼をして「それにしてもあの被疑者、初めのうちは傲岸不遜だったけど、思い出すうちにだんだん怯えて来て別の意味で面倒だったよ」
「そうなんですか? 」
「ああ。刑務所なら自殺できるものが無いから殺されないだとか、独居牢でないと同じ部屋の人が操られて殺されるとか」小梅巡査長はやれやれと言った素振りで「シャブもコカインもキメてないのにあそこまで妄想にとりつかれるなんて流石は宗教家様って感じだよ」話していると別の署員に呼ばれて小梅巡査長は鼻歌をしながら仕事へ戻っていった。
「あれ何を渡したんだ? 」彼が聞いてきた
「@ローマンのサイン色紙。宛名付きの」
「それをありがたがるなんて世も末だな」冗談めかして彼は笑った。
幕間
あれから僕は主に小梅巡査長とテレビとネットニュースなどで全体像を知ることになった。教団員の丸山が主謀者で共犯として合計10名が逮捕、教団員も30名以上が重要参考人及び関係者として任意同行され取り調べを受けている。
あのあとテレビで丸山が護送されるところを見た。髪の毛は抜け落ちてかなり痩せこけていた。相当取り調べが堪えたのだろう。そう話すと
「あれは完全に祟られているな」
「え、それ本気」
「ああ、あいつらは組織的に神社仏閣が大切にしていた御神体や仏像を奪ったり壊したりそれを穢してきたからな」
「そんなことあるの」祟りだとすれば案外普通の理由で、もし本当なら今まで放置されていたのはなぜだろう。それについては実行犯を認識するのが大変らしいと染谷さんは言った。そのまま続けて
「日本人でも何処かの神木を蹴ったりしたら祟られるだろう。でもそいつ自身も日本の他の神様から加護を得ている。だから神同士の取り決めた内容で済む。急に風邪を引くとかそのレベルだったりな。
だがあいつらは日本人じゃなかったり自分を外人だとして、信仰する神も本当にいるのか、それとも居ないのか、それがわからないくらい弱いのか。だから日本人の戸籍があるからといって八百万の神を信仰していないばかりか蔑ろにすることばかりしていたら守って貰えない。だから一旦たたられちゃあ終わりさ」
「それでそういう人達はどうなるの? 」
「さぁ? 」両手のひらを上に向けヤレヤレとポーズする「そのうち国とか民族ごと滅ぶんじゃないか
「えぇ」なんだか大事みたいだった
「いくら日本人でも現代になってお化けや妖怪だとか非科学的な物を信じてるやつの方が少ないだろう。だが初詣で毎年何万人も行く」
「別に信じてるわけじゃないよ」
「じゃあ鳥居とかお墓にションベンかけられるか」
「それは流石に無理」
「じゃあ靴を履いたまま神殿に入ったり、仏像を故意に踏んづけたりできるか」
「バチあたりになる行為の例えが厳しくない? 」
「そのバチあたりな行為を出来る人の方が遥かに少ない。そういう傍から見れば敬虔な気持ちがある人が大多数なんだ。これは意識してないだけで習慣として日本人に身についてるだけだとは思う。ただだからこそこの国は神様たちに守られているんだ」
「戦争でめっちゃ人死んだじゃん」
「でも滅びなかっただろう」
「む」
「神様達だって信じてくれる人達がいなくなれば存在できなくなるんだ。人を殺すのが大好きな神様だって共存していきたいから、滅んでほしいわけじゃない。でもバチあたりな人が増え続けたり、それを気にしない人が多くなれば… 」
「そんな事… 」反論しようとして口を閉じた。自分の肌感覚であるけど思い当たる節は出ていると思った。「てか何でそんなに詳しいの? 」
「聞いた」
「誰に? 」
「俺にトドメを刺すことになった岩の神に」
「は? 」
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