第9話 支部長の丸山

   支部長の丸山


 「お話は聞いております。どうぞこちらへ」カジュアルスーツを着た壮年の女性に案内され支部長室へ通され下座のソファーに座った。

 冷房の聞いたその部屋は、ドアを開けると正面に窓がありその手前にオフィスデスクと大臣とかが座りそうな革の椅子。その手前に膝より少し低いガラスの長机、それを左右にはさむようにソファーがあった。下座正面上座のすぐ後ろの壁には集合写真が飾ってあった、

 「おまたせしました」ドアがノックされ背の高い白いローブを着たおじさんが部屋に入ってきた。「私が西方カト教会八王子支部支部長の丸山と申す者です」


 「失礼しました」先程案内してくれた壮年女性はお茶を置いて出ていった。

 「いやはや最近の高校生は偉いですな。夏休みの自由研究でちゃんと話を聞きに来るなんて」

「えっと、自由研究でなくて新聞部で構内新聞の特集記事です」

「おおそうかすまない。ダイレクトメッセージが届いた時は驚いたよ。それに我が教会を選ぶとはセンスもいい」そう学校新聞の取材として外国宗教家にコンタクトを取っているしてあの丸山にメッセージを送ってここに来たのだ

「今回の取材は後で文字起こしもしたいので録音してもよろしいですか」安物のテープレコーダーを机においた。

「大丈夫だ。好きにし給えよ。それに可愛い高校の頼みとあれば断る道理もなかろう」

「ありがとうございます」目つきに寒気を感じたけどそれを出さずに「ではいくつか質問を致します」

 基本的な教義の話や教会の成り立ちなど前もって調べた以上に目新しいことは無かったが一応取材の体なので興味ありげにうなずいてメモを取るフリをしていた。ある程度の部分で予定にあるネットでの悪い噂を聞いてみたが丸山は怒る様子も無く笑いながら噂を根も葉もないと一蹴し、時には論理的に否定した。

 「次にお伺いしたいのは全国の支部はパワースポット付近に建設するというのは本当ですか? 」

「その通りだ。日本の霊的なパワーを感じることで修行の効果を上げる目的があるのだよ。勿論土地などは正規の方法で購入しているよ。それにこの辺りは特に霊場、心霊スポットが多く死者の魂などが大量に彷徨さまよっているからより効果的に修行が行えるよ」

「丸山支部長は幽霊とか見えるのですか」

「もちろんだとも」丸山はすごく胡散臭い笑みを浮かべ窓の外に目をやってすぐに戻し「ただこの支部本館は結界が張ってある関係で霊的なものは入って来れないから」

「・・・ 」

「そういえばここは交通量の割には事故多いですよね」

「うむ。私がまだ若い頃にここに本館を建てる予定があって、私はここの一帯を浄めてその時の功績が認められて支部長になったのだよ」自慢げなご様子だ

「浄めるとは具体的にどんな事を? 」

「主に交通事故などが有った場所で聖水を撒くなどをするのさ。この周囲10キロくらいだった。今も時折やっていてもう15年以上になるかな」

「・・・ 」

「では415号道路もですか? 」

「ああ、あの事件現場にも行ったよ。勇敢な青年が男の子庇って殺された事件だろう。きっとあいつも主のもとに行けただろう。しかしあんなに大きな岩に当たらなければ助かったろうに… 」

「・・・ 」

「そんなにその岩は大きかったんですか」

「ああ確か8メートルは越えてたはずだよ」

「そうなんですか。ぼ、私は415号には行った事がないのですが危ない所なんですか? 」

「いや見通しは悪くなくて車通りも少ない場所でね、多分子供の母親も油断していたのだろう。宅配便でドアを開けた隙きに走って道路に飛びどすしまうなんて」

「・・・ 」

「なるほど、にしてもどうして子供は飛び出したんでしょうか」僕は声が震えそうなのを抑えた

「君の年齢じゃ知らないだろうが当時ワイドショーなどではその子がお化けが怖くて逃げた。という証言をよく取り上げていたよ。子供の見間違えだろうといわれていたが415号道路を含め周辺がパワースポットという事も味方して随分騒いでくれたよ」

「・・・ 」

「詳しいですね。それにしても嫌な話ですね。その事件・・・ 」

「そう、嫌な事件だった… 」丸山は一瞬ハッとし下を向きかけた顔と体を起こし「すまない。事件でなくて事故だ良い間違えてしまったようだ」

「・・・ 」

「私も丸山さんが最初に事件と仰られたでつられてしまったようです」

「いいんだ、いいんだ」少し汗が丸山の額に見えた気がした。

「・・・ 」

「ところでなぜ8メートルもあると分かったんですか。当時の事故記事には記載は無かったのに」

「ははは、現場を浄めたのが事件、じゃなくて事故のすぐ後に行ったからだ」

「それはおかしいですね。岩は地面に落ちた衝撃で一番大きな破片でも2メートル位でしたよ」

「何を言って… 」少し苛立つ丸山の言動を遮るように発言を被せた

「それに新聞記事にはなにも書いてないのにどうして宅配便だと知っているんですか」

「ワイドショーで言ってたのを思い込んだだけだっ」かなり声に力が入っていたけど僕は退かない

「それに事故当時子供の母親は気が動転していて誰が来たのか覚えていないと事情聴取で答えていたとも。他にも… 」

「お前っ! 何が言いたいっ! 」立ち上がって苛立つ怒鳴り声。知ってる人は図星を突かれると相手を萎縮させるために威嚇するんだ。ここが踏ん張りどころだ。

「あなたが殺したのではないのですか? その子供を助けた彼を」体をこわばらせた丸山は

「あれは事故だ。そう処理され証拠もない」ソファーに腰掛け下を向いたままで表情が見えないが僕は続けた

「証拠にならなりますよ。今までのあなたの発言は公開されてない情報。犯人もしくは事件関係者にしか知り得ない情報を録音させてくれた。いわゆる秘密の暴露というものです」

 次の瞬間丸山は机の上のテープレコーダーを叩きつけ踏み割った。

「これで証拠は無くなったぞ! このメスガキっ」こちらを睨む丸山の顔は真っ赤に血が登って息が荒かった。僕はテープレコーダーへしっかりと顔を向けてから丸山を見返す

「それは認めるんですか。自分の罪を」じりじり詰め寄る丸山に言葉をぶつけるが男の興奮した剣幕に声が震えてしまった。

「震えるなんて可愛いじゃないか。ここは私のホームグラウンド、来たことを後悔させてやる」

「ヒッ」舌を舐めずって勝利を確信したオヤジは流石にキモかった。

「その制服をひん剥いてたっぷりと説法してやろう」なんて卑劣な大人だ。許せないでもまだ合図も来ない、このままだと間に合わないかも。負けてしまうのか。こんな奴に、悔しくて涙目になりそうだ。

 丸山が僕の肩を両手で突っ張った。大して痛く無いが大きく仰け反りし壁に頭を打った。 しまった、追い込まれた、目が重い、意識が、頭がぐわんぐわんする

「手間が省けそうだ。さてお楽しみの前に大人を疑って馬鹿にした失礼な態度を取った社会的責任を取らせてやる。 財布を出せ! 学生証を見せろ! 学校へ抗議してやるぞ。んん? どうした、声が出とらんぞ」

 俺は体を借りて立ち上がりニヤケ顔を見下ろし答えた

私立わたくしりつ明け星學園。3の東、出席番号十八番」

「な… 」

「染谷道浩」 

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