第3話

村の広場には老若男女、すでに多く人達が集まっており皆興奮して大声で話していた。

俺が到着すると広場は静まりかえり人混みをかき分けて昨日最初に会った長老が近くに来て話しかけてきた。


「本日救世主さまの能力を見せて頂きますが大丈夫ですか?」


全然大丈夫じゃないです。


「大丈夫です 問題ありません」


「おぉ さすがですね では早速披露してもらっても良いですかな?」


このまま異世界で逃げても何処かで野垂れ死ぬだけだしやるしかないか


「はい では始めさせて頂きます。」


よーし 適当に呪文を唱えるか あの神のじいさんが言ってたとおり異世界の信仰心で能力が得られるなら、この村の信仰心分くらいの能力は持っているはずであると考えられるし、流石に無能力で異世界には送らないだろう。

しかし能力を貰っていたとしても発動条件が分からないが条件を言われてないということは簡単に発動できるはず、とりあえずじいさんの名前を出してみるか


「リアギシ教の主神であるゾルンよ 俺に力を発動させたまえ」


シーン


やっぱりまだ能力は手に入れられてないか、これからどうしようと思ったところ、急に快晴だった空が曇り雨が降り始めた


ザーーー ザーーー


「これが救世主さまの力」「急に雨が降り始めたぞ」

「しかし何故雨を」 「まだここから何かあるのではないか」


良かったこれで能力はあることは確認できたし、認められた。流石に雨降らすだけの能力じゃないだろうしもう一度唱えてみるか


「リアギシ教の主神であるゾルンよ 俺に力を発動させたまえ」


ザーーー ザーーー


えーと 何も起こってないな もう一度


「リアギシ教の主神であるゾルンよ 俺に力を発動させたまえ」


ザーーー ザーーー


あれ まさか雨を降らすだけじゃないよな


「リアギシ教の主神であらせますゾルン様 私に力を発動させて下さい お願いします」


ザーーー ザーーー


これ何も起きないやつだ


「あの長老さま雨が降ったあと何も起きてませんが」「いや しかしこれだけでおわるとは...」


雨が降っている中、しらけた空気が集団に広がっていく、確かに救世主と名乗る男がただ雨を降らすだけの能力しか持ってなかったら、俺だって困惑もする。

これからどうするか。異世界転移する前に神から言われたことを説明するしか道はない気がするし...

そんな風に考えているとフィティナが近くに寄ってきた。


「あの救世主様、失礼を承知で質問させていただきますが雨を降らす以外の能力をヒズル様はお持ちでしょうか? 先程から呪文の口唱をしているのをご覧させて頂いていたのですが何も起きてないように感じたのですが、もし私たちの目に見えない形で発動してたりしていたら、気づけなくてすいません」


やばい、すごく疑われている。でも能力が信仰度によって変化していくことを言っても、この村の人達なら許してくれそうだ。とりあえずフィティナに伝えてみて反応を見るか。フィティナなら受け入れてくれそうだし、昨日から今日にかけて短い間だけど優しい性格だということは感じるから大丈夫なはず。


「そのことなんだけど、ちょっとフィティナにだけ伝えたいことがあるから俺が今居させてもらっている小屋で話させて貰えないか?」


フィティナは困惑しながらもうなづき、村長にその由を伝え、この場は解散となった。


小屋に戻るとすぐにフィティナが話しかけてきた。


「お話とはなんのことでしょうか?」


「さっき広場で披露しようとした能力の話なんだけど、実は俺は雨を降らす能力しか持っていないみたいなんだ」


その言葉を聞いてフィティナは目を見開き口をぽっかりと開けている。今のうちに話を進めてしまおう。


「俺の能力は、この世界のリアギシ教が信仰されている度合いによって強くなっていくらしくて今の信仰度だと雨を降らすくらいしか出来ないみたいなんだ」


「つまり現状私たちの村くらいしかリアギシ教を信じている者がいないということなのでヒズル様の能力はあれだけだと」


「あれだけなんだよ 俺も泣きたいよ 雨を降らすだけなんて日照りのある土地とかだったら使えるかもしれないけど、この土地は緑豊かだし雨には困ってないだろ 能力を強くするためにはリアギシ教を布教しなければならないし、雨を降らすだけの能力でどうしろって言うんだ」


この先の事を考えると俺をこの世界に送り出したゾルンへの恨みの言葉が溢れてくる。そもそも俺はソシャゲのガチャでピックアップされているキャラを出すことを冗談で神頼みしただけなのに、それがこんな状況に陥ってしまって、多分広場での能力披露で村人に失望されているし、打開策も思いつかない。


「あの ヒズル様落ち着いて下さい リアギシ教を布教死なければならないなら私が...」


ドッカーン


その時フィティナの言葉を遮って外から爆発音が聞こえてきた。


「ヒズル様はここで待っていて下さい 私は外の様子を見てきます」


俺が驚いているのを他所にフィティナは颯爽と扉の外に飛び出して行った。


まさかこれってよくある主人公が居る村への襲撃イベントじゃないよな。

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一神教の異世界で多神教を布教するって難しくないですか @yakiomusubi

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