「2番と10番行こうか」と言われる度ハンドルに突っ伏したくなった

 秋というのは、教習所が徐々に混雑してくる季節です。冬休みや春休みを利用して免許を取ろうとする高校生が大挙して入校する直前の時期。


 教習所の技能教習は予約制でして、事前に乗りたいコマを押さえておく必要があります。

 混雑してくると、この予約がなかなか取れなくて苦労するらしいのですが、私はどうにか混雑する前に卒業を迎えることが出来ました。


 教習所で挫折しないためには、通い詰めるのが一番だと思います。技能教習は毎日入れる勢いでこなさないと、折角身体が覚えてくれた感覚が簡単に抜けていきます。教習所の休校日といった仕方ない場合以外は、無理矢理にでも運転しに行きました。昨今のご時世的に、体調不良なのに無理して行くのは教習所の迷惑になるので、やめた方がいいですが。



 そろそろ本題に入りましょう。教習開始から仮免許取得までの話ですね。



 私は変な癖が付きがちでして、すんなり出来ることと、延々と出来ないことの二極化が酷かったです。しかも、同じ項目でもコースによって好き嫌いが激しかったですね。


 私は生まれつき酷い斜視で、幼少期から距離感が他人とは異なりました。例えば、ジャングルジムを登る時、手摺を掴んだつもりだったのに、実際そこには何もなくてバランスを崩して地面に落ちた、なんてザラでした。

 私の眼が認識する物の位置は、実際の位置ではないことが多かったのです。中学時代に手術をしてから、大人になるにつれて落ち着いていきましたが、今でも自分の視覚に自信がありません。


 そのため、最初の車両感覚を掴むところから大変でした。通い始めたばかりの頃は、ただの外周左回りでも、よく脱輪していました。脱輪の常習犯です。

 内輪差(曲がる際に後輪が前輪よりも内側を通ること)を考慮した適切な距離感を覚えるのに、結構時間が掛かったと思います。


 その後、少しずつ車両感覚が身に付いてきて右左折に慣れても、S字とクランク(S字はSの形に曲がりくねったカーブ型の狭路、クランクは一定間隔で直角に右折や左折する箇所のある狭路)には本当に苦労しました。運転者の距離感が物を言う項目ですから、視覚が他人よりも阿呆な自覚のある私には、苦行でしたね。それでも、どうにか出来るようになったのですが、ここで問題となったのは私の変な癖です。


 私が通っていた教習所のコースにおいて、S字とクランクは2つずつありました。ただ、2番と10番のコースは何度やっても成功率が低かった……

 他のコースは最初こそ失敗しても、コツを掴んでからは滅多に失敗しませんでした。なのに、2番と10番だけは、何度やってもしくじりました。自分でも何で失敗するのか、わからないほどです。ベテラン指導員曰く、「同じ項目でもコースによって好き嫌いが出てしまう教習生は多い」とのことでしたが、それにしたって成功率が低すぎる。


 この変な癖のおかげで、S字とクランクは2回も復習しました。あまりにも同じところでしくじるものですから、頻繁に私の担当をされていた指導員には笑われて弄られました。まだ運転に対して不安が多い段階でしたし、笑ってネタにしてくれるのが、むしろ有難かったです。



 また、私は教習開始から連日技能教習をこなしていたため、ある問題にぶち当たりました。

 S字とクランクもどうにか出来るようになり、ようやく運転席に座る感覚に慣れてきた頃です。仮免前効果測定に合格しなければ、技能教習が出来ないとの宣告を受けてしまったのです。


 仮免前効果測定とは、仮免試験前に合格しなければならない学科のテストです。これに合格しなければ、技能教習の見極め(技能習得度の確認)が受けられません。

 私は、学科よりも先に見極め直前の段階まで技能教習を進めてしまったのです。

 決して学科をサボっていた訳ではありません。毎回どうしても都合が合わない時間帯に開講される講義がありまして、その影響で学科が少し遅れ気味になってしまったのです。


 追い詰められた私は、ずっと都合が合わなかった最後の講義を受けてすぐに仮免前効果測定を受験しました。正誤問題で50問。


「このままでは技能教習が受けられない。日が開いたら運転の感覚を忘れてしまう」と焦っていたこともあり、時間を費やして勉強する余裕がありませんでした。


 しかし、二択ならいけるかもしれないと半ば博打で突撃しました。これが良くなかった……


 ものの見事に、合格ライン-1点で不合格。あまりにも酷い点数なら、いっそ開き直れます。それなのに、合格ライン-1点とは何なのか。悔しいのなんの。


 ここで、私の変な意地に火が付きまして、「絶対に今日中に効果測定突破してやる」と急遽教本のフル暗記に掛かりました。

 私が通っていた教習所では、効果測定は1日3回までトライ出来ました。そのため、3回以内に合格してやると毎時間試験室に足を運んだのです。


 2回目も合格ライン-1点で不合格。学科担当の方に惜しいと苦笑されました。


 3回目の正直だと、教本と間違えた箇所を出来るだけ暗記して次の時間も受験。そして、ようやく合格しました。


「卒業前効果測定では、こうならないようにしよう」と、強く心に誓った瞬間でした……



 そして、仮免試験です。技能と学科の試験を午前と午後に分けて行います。

 私は、午後に仕事が入ることが多かったので、まずは技能試験を受けて、学科試験は後日にして貰いました。


 技能試験では、助手席に検定員、後部座席には自分と同じく仮免試験を受ける教習生を乗せて運転します。助手席に指導員が乗っているのはいつものことですが、後部座席に人を乗せるのは仮免試験の時が初めてで、何だか不思議な感じがしました。

 学科試験はマークシート方式の正誤問題。仮免前効果測定で散々失敗したので、少し怖かったのですが、何とか技能も学科も仮免試験は一発合格することが出来ました。



 次回は、指導員にはどういった方が多いのか、話していこうと思います。

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