19.殺人鬼

2020年 09月27日 17時54分 投稿

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 少女は、まだ十六歳の乙女だ。都会の古いアパートに、たった一人で住んでいた。朝日の差し込む部屋で、部屋の真ん中にぺたりと座り込んで、日課である剪定鋏磨きをしていた。最後の一つを磨き終えると、少女は満足げな顔をした。そして白手袋をつけた両手を合わせ、日が射す窓を向いてお祈りを捧げた。しんと静まり返った部屋の窓際、少女の祈る先には、鉢植えのメグサが日光を受けて神々しくゆらいでいた。

 その日の夕方、彼女はゴミの匂いが充満した路地裏に一人隠れてメールを読んでいた。新しい依頼のメールで、「メグサ神の恵みがありますように」と締め括られていた。

 端末が振動して予定時刻を知らせると、彼女は白手袋を外して、顔を一枚の紙で覆った。それから右手に剪定鋏を持ち、軽やかな足取りで大通りに近づいた。向こうからは一人の男が歩いてくる。彼女はその足音に耳を澄ませ、男が路地裏の横へ来るのを待った。瞬間、路地裏へ引き摺り込み、そのまま流れるように布を口に突っ込んでアキレス腱を切断する。どさりと巨体が崩れ落ちた音もくぐもった叫び声も、大通りには届かなかったようだ。ゾクゾクと感動的な震えを抑えて彼女は両手で鋏を握り、男の太ももの付け根にそっと当てた。咆哮と共に鮮血が飛び散り、続け様にもう一本の脚、左右の腕もアスファルトに落ちた。少女は最後に首筋に刃先を当てて、男の顔を見た。既に両手両足を失い、恐怖と痛みに醜く歪んだ男の顔は体液が覆い尽くし、腐った匂いも相まって、この世の何よりも醜い。

 目を細め、少女は首を切り落とした。赤い血が彼女の素手と顔隠しに飛び散った。

 夕暮れ、音ひとつない路地裏に、顔を隠した殺人鬼一人。大きな血の水たまりを見下ろして、少女は生首と目が合った。動かない目は生きていた時のような醜さのない、人を超越した神々しい色をしているように思われ、少女はすてきな笑みを浮かべた。

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