18.王様の青
2020年 05月19日 04時00分 投稿
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この国の王族の瞳は「王の青」という特別な青色だ。そして1ヶ月前、新しい王が誕生した。
暇なので書きました。雑です。地の文少なめ。
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王様は名前をケビンといって、勝手で世話焼きな奴だった。実際に王様に会ったことがある俺が言うんだから間違いない。なんだよ、バカにしてんのか?嘘じゃないんだからな。
俺が森で薬草を探しに行ったときに森で倒れていたのを見つけたんだ。その時ケビンは14歳。俺は15歳で、俺の方が歳上だから世話してやろうと思って、家に連れて帰ったんだよ。
ケビンははじめ、自分が王子だとは言わなかった。代わりにこんなことを言ったんだ。
「俺はこの村に、消えた王子を探しに来た」
バカ真面目な顔して言うからもしかしたら本当かもって一瞬だけ思ったけど、この村の連中の中に、王子なんかいるわけがないだろ。だから俺は、村を間違えてるんじゃないかって何度も言ったけど、何度言い聞かせてもケビンは聞かなかったよ。
俺のボロ家であいつが生活を始めて、昼は俺と雑魚寝して、日が沈んだら闇市に薬草を売りに行って、朝に薬草を取りに森に行った。そんな生活をずっと続けていたら、だんだんケビンもここの暮らしに馴染んできて、手もガサガサになって言葉も荒くなった。だんだん王子探しなんて話はしなくなってきて、しまいには「ウィルの目になる。どうせ王子を連れてないと帰れない」なんてことまで言い出した。嬉しかったけど、そんなの無くたって生きてきたからなあ。
だんだん俺もケビンのそんな言葉に絆されて、ケビンのいる生活が当たり前になってた。でもそんな平穏な生活ってのは、あっさり終わってしまうもんなんだよな。
森に薬草をとりに行ったある日、俺は脚を狼に噛まれた。血も止まったし、後遺症も特に残らなかった。けど、その日俺は病にかかったんだよ。ケビンはそれを「忘却症」だとか言ってた気がするが、そんなことはどうでもよくて、その病は高熱が出るだけでなく、記憶を失っていく病なんだとさ。高熱にうなされているうちに記憶がなくなって、自分も何もかも忘れると死んじまう。
治らないわけじゃないらしくて、ケビンはうなされる俺のために薬を探してくれた。村の奴らが協力してくれたからなぁ、薬は簡単に見つかったよ。でも、それは庶民の俺らには手が出ないほど高い薬だった。
俺はこのまま死んでもいいと思ってたよ。このまま生き続けてどうなるわけでもないからさ。でもケビンが俺がいなくなることをあまりにも怖がるから、生きようかなと思って。
「多分、俺の目は高く売れるぞ」
って言ってみた。なんだったかな、そういう確信があったんだ。見えないからどんなものかは知らないけど、誰かが……ああ忘れた。誰かが幼い頃にそんなことを教えてくれた気がするんだ。貴方の目には価値があるとかなんとか。
そしたらケビンが俺の目蓋を勝手に開いて、絶対売らせないとか言い出して、しかも王都に帰るとまで言い始めたんだ。王都に帰ったからってどうすることもできないはずなのに、ただ「帰る」の一点張りで。
その時、俺はまだ症状が軽かったけど、王都までは1週間くらいはかかるからさ、その間に悪化してどんどんケビンに迷惑をかけると思ったんだよ。それに、ケビンは王都に帰っても王様に見つかったら殺される予定だった。ケビンは王子を連れ帰るために村に来たらしいから。
だから、俺は……その日の記憶だけは妙に鮮明なんだ。ケビンがやらないならと、自分の目をくり抜いた。脳天までナイフが刺さったかと思うほど痛かったけど、どうせ見えない目なんだ、あったって仕方がないからくり抜いて、そしたらケビンがそんな俺を見つけた。ケビンは今まで見たことがないくらい取り乱して、叫んで、「俺がやらないと……」ってブツブツ呟いて、俺はそんなケビンの様子なんて見えないから、何してるのかはわからなかったけど、疲れたからその場で寝てたらしい。
気がついたら熱が引いてて、目の場所もジクジク痛まなかった。ケビンの名前を何度呼んでも、あいつは返事しなかった。机の上がナイフで削ってあって、
「世話になった。ケビン・ロンド」
なんて汚い字で書いてあった。でもケビンって王様だろ?だから多分あれは彫り間違えたんだ。ロンドとジークハルトを間違えるなんて、どうやったらできるのかわからないけどな。
村の奴らに聞けば、ケビンは王宮に帰ったらしい。俺はひどく悔しかったよ。俺はケビンのために生きたのに、ケビンは俺を置いてさっさと故郷に帰ったんだ。だから俺は今も、あいつを恨んでるよ。でも、同時にもう一度くらい会ってくれてもいいんじゃないかって、帰ってきてくれることを期待してるし、遠くで元気にしてればそれでいいようにも思ってる。そこはアレだ、誰かも言ってたやつだ。『二度と会えない人は恨むより愛した方がいい』ってやつ。最近この言葉も流行ってるらしいけど、俺の方が先に知ってたんだからな。
そこから先は、あんたも知ってるだろう。「王様の青」の目を持った王子、ケビン・ジークハルトが十数年越しに発見されて、国中がバカ騒ぎした。ケビンは立派な王子として、盲目にもかかわらず優秀な成績を残し、ようやく1ヶ月前に王になったというわけさ。
え?別のケビンなんじゃないかって?バカいえ。王族の姿絵は国中に出回ってるんだ。それを見た村の奴らがあのケビンだって言うんだから、間違ってるはずがないだろ。まあ確かに、盲目ってところは引っ掛かったんだけどさ、俺もあいつの目を見たことがないから青い目だって知らなかっただけで、多分ケビンは王宮に帰る途中で目に怪我か何か負ったんだよ。その辺はまあ、俺の知らないところでだな。
は?俺のその後?そんなの聞いてどうすんだよ。まあ言うけどさ。
俺はそれからも薬草を売る仕事を続けてるよ。多分もう少ししたら、自分の店も持てるようになるだろうな。あと、副業として薬草を買った客に王様の話もして回ってるな。庶民出の王なんてバカな噂を消すためにな。
それで?お前はなんでわざわざ他人のフリをしてまで、俺の王様の話を聞きたがったんだ、ケビン?
***
「……さすがにバレてたか」
ウィルは悪戯っぽく笑って、当たり前だと言う。
「何年一緒に生きてきたと思ってんだバカ。声聴いてすぐにわかったわ」
「そりゃそうだよなぁ。俺も盲目になってから耳が良くなったから、ウィルの言ってた『声は顔と同じ』ってのはわかるようになったよ」
他にもいろいろわかるようになったことがあった。ウィルが薬草を探せたのは、葉の形や手触りだけでなく、触った時に毒でピリッと痛むのか、ジクッと痛むのかで識別していたこととか。スプーンにも実は表裏がわかる傷が付けられていて、それで判断していたこととか。
「ウィルもそうだろう?大人になった今だからこそ、わかるようになったことがあるはずだ」
「ああ、いろいろと迷惑をかけたな。俺のために
声のトーンが少し低くなる。側にいた人がたじろいだような気がして、そういえば紹介を忘れていたと思い出した。
「おっと、その話の前に紹介しておこうか。こちら、先王とその妃だ。つまりお前の肉親だな」
「は!?そこに誰かいるとは思っていたが、先王かよ!今日はもう驚かないと思ってたのに」
握手を交わして簡素な挨拶をして、歳を取った二人は泣きそうな声だった。実の息子を前に、涙が止まらないのだろう。
「ケビン、お前偽王子だって先王にバレて大丈夫だったのか?てかなんでバレたんだ?」
「なんでも何も、行きと目の色が変わってたらバレるだろう。あと、かの有名な『王様の青』の瞳の話だが、それには王家しか知らない秘密があるんだ。王家の瞳の持ち主は、涙が青いんだよ」
懐かしい気持ちで王宮に帰還した日のことを思い返す。その日自分が王子だと言う俺にまず先王が言ったことは、「泣いて見せろ」だった。俺の涙はちっとも青くなかったので、絶対に王家の者ではないことが判明したのだ。
「つまり俺の涙は青いのか」
「そういうことだな。まあ、眼球が2つなくなったんだ。これからも泣くことなんてないだろうし、泣いても目蓋の奥に溜まって落ちてこないんじゃないか?」
「包帯もしてるし、誰かに変に思われることはないだろう」
「なら包帯は青く染めておいたらどうだ?なんなら俺が新しいのを……おっと、もう一つ大事なことを伝え忘れていた」
俺がパチンと指を鳴らすと、先王たちの気配が消えて人がいなくなる。ウィルと2人きりの状態で話しておきたい、大事な話のために口を開こうとした。
ウィルは俺が口を開くのを遮るように、強めの声で言う。
「わかってる。返事はイエスだ」
「……まだ話していないんだが」
「どうせアレだろ。お世継ぎの話だろ。本当に王家の血を受け継いでいるのは俺しかいないから、俺の子を王子として育てないと、あの年老いた先王にまた子作りに励ませることになる。その辺は一応、頭が悪いなりに考えて結論を出したさ。お前の提案をのむ」
相変わらず早とちりなウィルに大きくため息をつき、馬鹿にするような態度で口を開いた。
「それも話の一つではあったけど、そっちじゃない。俺はだなあ……世継ぎの件もそうだが、それも含めて、お前に王宮で一緒に住まないかって言いにきたんだよ。せっかく店を持てそうなくらい仕事がうまくいっているところ悪いが、俺はお前が死ぬことだけじゃなくて、お前と一緒に生きられないことが怖いんだ。だから、あの日置いていった俺がこんなことを言うのは卑怯だけど……俺と一緒に生きてほしい」
ウィルはしばらく何も言わなかった。俺の言葉を噛み締めて、ウィルなりに答えを出したんだと思う。やがて、ぽつりと呟いた。
「バカだなぁ、そういうことは惚れた女に言えよ」
「もう言った」
ウィルは少年のような声で笑った。つられて俺もあの頃のように笑った。
ウィルに拾われた時から、俺の人生には光があった。ウィルが王子であろうがなんだろうが、光をくれたウィルのために、全てを尽くそうと心に決めた。
きっとあと何年かしたら、俺はあの日見惚れた王族の青の瞳を持った、大事な人に似た子供をこの両手で抱くことになるのだろう。その姿を見ることは叶わないが、見えなくても、あの美しい青は俺のそばでいつも輝いている。俺たちの友情の証として、強く。
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