37.七夕
2021年 07月07日 17時00分 投稿
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最近は弟と妹たちに、ちょっとした朝ごはんを食べさせてやれるようになって嬉しい。お金の出どころを母には怪しまれているけれど、こればかりは説明するのが難しくて、苦笑して誤魔化してばかりいる。
昨年の七月七日、天の川が綺麗に見えた日、友達と別れた帰り道で織姫さんに出会った。声をかけられて振り返れば、背の高い女性がこちらを見ていた。彼女は素早く駆け寄ると、ぼくを彦星と呼んで、「やっと会えた」とわっと泣き崩れたものだから、ぼくは仰天してしまった。「生まれ変わってからずっと、あなたを探していたわ!」
以来、ぼくは彼女と定期的に会うようになって、彼女はぼくにさまざまな援助をしてくれた。粗末な服を見咎めては新しい服を施し、勉強に必要なものをケチってはいけないと文房具を与え、しまいには家族の一週間分の朝食代をくれる過保護っぷりだ。
「彦星が望むものはいくらでもあげる。その代わり、早く私のことを思い出して」と、星のようにキラキラと光る涙をこぼして、彼女はぼくの手にお金を握らせた。あまりに切なげなものだから、ぼくも早く前世を思い出したいと願うほどだった。けれど、いつまでも前世を思い出すことはできなかった。彼女の支援とぼくのもやもやとした気持ちは、今年の七夕までずっと続いて、唐突に途切れた。
「人違いでした。ごめんなさい」
一言吐いて逃げるように立ち去ると、彼女は町であっても二度と目も合わせてくれなくなって、ぼくはただただあっけに取られた。生活はまた朝ごはんがない貧しい日々に逆戻り、母には、もう怪しいバイトに行ってはいけないと諭された。随分心配をかけてしまっていたみたいだ。
久しぶりにお腹を鳴らして登校すると、親友のけいちゃんが、今日は朝ごはんを食べなかったのかと聞いてきたから、今まであった不思議なことを全部話した。すると、さすがけいちゃんはいいことを教えてくれた。
「織姫と彦星は、一緒にいたらお互いをダメにしてしまうから、年に一度しか会えなくなったんだろ。だから、お前は彦星じゃないし、彦星じゃなくてよかったんだよ」
しばらくして、ぼくが織姫さんを見かけることはなくなった。彼女たちはきっとどこかで、二人にとって幸せな生活を送っているに違いない。
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