22.天使の舞

2020年 10月01日 19時57分 投稿

僕にはうりふたつの従兄弟がいる。

*なろうに掲載していた未完結連載「天使の舞」と似た設定ですが、内容は別です。この作品単体でお楽しみいただけます。

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 似るというのは、嫌悪することと同義である。

 ゆえに同等の性質を持つ同族は、互いに互いを憎む運命にある。

 はじめ、僕らはただの従兄弟だった。上谷瑠架と神城麗音はただの母方の従兄弟で、ただの親戚だった。物心つく頃からそっくりで僕らはよく間違われたけれど、それでも僕らはただ見た目がそっくりな従兄弟でしかなくて、お互いにただの友達だった。

 すべてのきっかけは、たがい違いのワッペンを誤ってつけたことだった。僕らを見た両親はそれぞれ、間違った子供の手を引いて、間違った家につれて帰った。彼らは自らの子を慈しむようにカッコウの子に世話を焼き、やわらかい布団に寝かしつけた。彼らは、ただワッペンをたがい違いにつけただけで自分の子を見失った。それが子供心には楽しく思えたのだろう、それ以降、なんとなく「瑠架」と「麗音」を取り替えっこして遊ぶようになった。

 何年か経ったある日、僕は言った。

「レオン、お母さんたちって、僕らをあいしていないのかな?」

「どうして?」

「だってお母さんもお父さんもおじさんもおばさんも、誰も僕らのことがわからないんだもん。いっつも名前で呼んでくれない」

 この当時、僕らはまとめて「おチビちゃん」と呼ばれていた。きっと見分けがつかなかったから、彼らなりの苦肉の策だったのだと思う。けれども僕はこの呼び方が嫌いだった。そして、僕らはこの日を境に、小さな輪の中に閉じこもった。お互いを理解できるのはお互いだけで、誰一人も僕らを理解してくれないと考えるようになった。何をするにも二人でやった。好き嫌いも同じにした。テストも同じ点数を取った。少しでも違うところができたら、敵に僕らの秘密がバレてしまう。そう思って、全部をふたり一緒にした。

 けれど、ただ一つ一緒にならないことがあった。家族だ。

 僕は次第に、自分の両親が麗音の両親より乱雑で、粗悪で、つまらない人たちのように思うようになった。それに比べて麗音の両親は上品で、優しくて、理知に富んだ人だった。

 僕は二人の子供として、麗音として過ごすのが好きだった。けれど僕は二人の本当の子供じゃない。いくら似ていても、僕はただの上谷瑠架だったのだ。僕らは互いに、互いの両親の本当の子であることを羨み、妬み、憎むようになった。もはや僕らは分かり合えなかった。唯一の味方すら敵になって、僕は、もうダメだった。



 崖の上から見下ろした地面は、土気色の中に赤い点がひとつくっきりと見えた。僕は自らの上着をかざし、手を離した。ひらひらと上着が落ちてゆく。これで「麗音」は僕のものだ。

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