6.捨てるには惜しいはずだ
2018年 01月11日 19時07分 投稿
ヤオヨロズ企画参加作品です。
何の擬人化かはすぐ分かると思います。
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俺たちほどの嫌われ者はいない。
自意識過剰だって言うのかもしれないが、
それは大体合っているはずだ。
俺だって嫌われない道もあったんだ。
昔は八百屋の店先に出されて、多くの人に触れられていた。
「あら、大きくて立派ね」
「そうでしょう?しかもね、甘くてみずみずしいんですよ」
なんて言われて。
なのにいざ台所にやってきて、ピーラーで俺が剥がされたら、そのババアは俺をそのままシンクの隅の網に入れやがった。
綺麗に洗えば食えるだろ。
そうでなくても、他の奴らと一緒に煮れば出汁ぐらいは取れるじゃねえか。
俺自慢の鮮やかなオレンジ色も、
そこに入れられてしばらく経てば黒っぽく変色してしまい、
そのまま蓋つきの箱に入れられて。
ちゃんと干せよ俺らのこと。
手間がかかるからそこまではできないとしても、せめて振ってちゃんと水をきるくらいはしろよ。
そんなべちょべちょなままで捨てるから、臭いがきつくなってハエが集るんだよ。
しばらくすると真っ暗なその場所の天井が開いて、新入りが入って来やがった。
「どうも。秋刀魚でごぜえやす」
「何でお前みたいなやつがこんなところにいるんだ?うまく焼けているのに、手付かずじゃないか」
「へえ、ここの坊ちゃんが魚嫌いらしく、おかんの目を盗んでおいらを捨てたんです」
全く、酷いことだ。
せっかく漁師がとって、ババアがうまく焼いたうまい魚を、「嫌い」の一言で捨てるだなんて。
その後も次々新しいのが入ってきた。
そうして集まった俺たちは、皆が口を揃えてこう言った。
『自分はまだ捨てるには惜しいはずだ』
ここに来る前に食われるか何かに使われることもできたはずだ。
なんなら畑の肥料になってでも、人の役に立てるだろう。
しかしそんな叫びも虚しく、黄色い袋に詰められた。
もうその時には元の色も分からないほどに黒くなってしまっていた。
俺の鮮やかなオレンジ色を返せ!
朝になってようやく俺たちは動かされた。
どうやら運んでいるのはババアの息子のチビらしい。
臭い臭いと言いながら運ぶそいつに、思わず一言。
「臭くしたのはテメェらじゃねえか」
チビは最後まで文句を言いながら俺たちを運んでいたのだが、しばらくするとようやく下ろした。
けれど見渡すと、周りに黄色い袋が見当たらない。
少し離れたところに何やら書かれているが…
って、今日は燃えるゴミの日じゃねえし。
しかもここは回収場所と違うし。
というか道の真ん中だし。
袋に入っていてもきつい異臭を放ちハエが集っている俺たちを、通行人は顔を顰めて通って行く。
道の端の方に動かしとけよ。
他人事だって無視して通るのかよ。
しかし、俺たちの近くにいるのがハエと通行人だけだったら良かったのだが、嫌な奴も寄ってきてしまった。
真っ黒でカアカアとなくそいつは、袋を突いて器用に穴を開け、嘴を突っ込む。
そしてなぜか俺を引っ張り出す。
やめといたほうがいいぞ。
食っても腹壊すだけだから。
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書いていてなんだか悲しくなってきました。
生ゴミに対して自分が環境のためにしていることが少ないなあ、と。
にんじんの皮の擬人化でした。
にんじんの皮。にんじんを丸まま食べれば捨てることはありませんが、皮だけ剥いてしまうと「食べられるのでは」と思われることなく生ゴミにされてしまうことが多いように思います。しかし、是非とも召し上がっていただきたい。工夫して料理に使えば余すことなく食べられるのですから。
それ以外のゴミも登場しました。
料理を手付かずのまま捨てるというのは、使われた食材にも、それに関わった人々にも失礼な行為ですから、 なるべく無いようにしたいものです。特に、作中に登場した秋刀魚は骨が邪魔かもしれませんが、近頃は不漁で高いですからね。そんな意味でも捨てるのはもったいないです。
いつも捨てているそれ、捨てるには惜しいはずです。
環境のことも、捨てられるそれのことも、もう一度よく考えて、それから捨てませんか?
読んでいただきありがとうございました。
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