10.「電話」

2018年 03月22日 10時21分 投稿

———————————————

「生きてるの?」


受話器の向こうの相手から、唐突にそんなことを聞かれて


久しく会っていない親しい人で、


声を聞くだけで嬉しくなって


「生きてるよ」


ただそう答えを言っただけで、嬉しそうなため息が聞こえて


今度は食いつくように、別の言葉が紡がれて


「生きてくの?」


間を空けずに、


「生きてくよ」


と言えば、安心した様子がこちらまで伝わってきて


過去の出来事を思い出して、


「生きてたの?」


と問えば、少し間が空いて、


「生きてたよ」


と返ってきて


それがやけに明るくて、するとなんだか怖くなって、


「生きてるの?」


なんて尋ねてしまって


何を馬鹿なことをと思っていたら、返事は一向に返ってこなくて


待てども待てども、一言も物音も聴こえなくて


呼吸すら、聴こえなくて


前触れもなく、物音のないまま、


「ツ――――――――」


と機械音が頭の中で鳴り響いて


電話を見れば、『番号は?』の文字が四角く光っていて


受話器を置く気力すらなくて、


右手から落ちた無彩色のプラスチックが、


地面に落ちる前にバネに引っ張られて、


足元を揺れてる音があって

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る