第2話 それは、六年前

 ――六年前


「ヨシト、行くぞ!」

「おう!」


 いつものように、庭で子供たちは遊んでいた。


 ヨシトとイッセイは、ボールの投げをしていた。


「おらーっ!」


 イッセイがヨシトに向かってボールを投げる。

 ヨシトは構えるが、その勢いに押されてキャッチし損ねてしまった。


「うわぁっ! 待ってて! 取ってくる!」


 ヨシトはそう言い、ボールの飛んで行った方に走って行った。


 ボールは、庭を囲んでいる森のようなところの中に飛んで行った。ヨシトはその後を追い、森の中に入って行った。



 ――十分後


 まだヨシトは帰ってきていなかった。


「イッセイ、一人?」


 一人でいたイッセイに、とある少年が話しかけた。


「あ、シキ」

「ん?」


 その少年の名前はシキ。ここの子供たちの中では年長者に位置する人物だ。


「ヨシトが帰ってこないの」

「えっ?」


 そしてイッセイは、ここまでにあったことをシキに話した。


「なるほどね……ちょっと、見に行ってくる」

「え、あ、俺も……!」

「いや。ヨシトはここにいて。入れ違いで戻ってくるかもしれないし」

「……わかった」


 シキはそう言って、近くにいた同じく年長者のメイと一緒に、ヨシトを探しに森に入った。



  ◇ ◇ ◇



「なるほど……森には入るなって、言われてるのにねー」


 メイは明るくそう話しかけた。


 森に入るのはシキもメイも初めてで、二人とも不安しかなかった。その雰囲気を変えようと、メイは無理にでも明るく話しかけた。


 でも、雰囲気を変えることはできなかった。


「怖い……こわいよぉ……」


 シキはそう言いながらメイにしがみついた状態で歩いていた。


 二人は、他の子供たちに兄や姉のように慕われ、頼られていた。その責任感からシキはあんな風に言ったが、本当はそんなに強くはない。優しすぎる一面まである。そのせいなのか、シキはこんな自信のないことまで引き受けてしまうことがあった。


「ねぇ、本当にこっちで合ってるんだよね……?」

「知らないよ……そんなこと。シキは知ってんだと思ってた」

「いや。こっちって言われたけど、どこにいるかなんて知らないし……」

「えぇ……」


 二人は暗い森の中を、どこに進んでいるのかもわからずに進んでいた。


「ねえ、あれ、何……?」


 その中で、光る何かを見つけた。


 駆け寄って、二人はそこにあったものを見て言葉を失った。



 そこには、ヨシトが仰向けに倒れていた。



 血痕も傷もなく、心臓のあたりの上に、中で何かがビリビリしている石のようなものが置かれていた。

 近くには、ヨシトが追って行ったであろうボールが転がっていた。


「ヨシト……!」


 シキはそう言ってヨシトに駆け寄って行った。


 そして、シキがヨシトの上にあるその石に触れた瞬間、シキは崩れ落ちた。


「シキ……?」


 メイはシキに駆け寄って行った。


 メイがシキのことを抱えて起こそうとするが、シキは全く目を覚まさない。すると、シキの心臓のあたりから、ヨシトの上にあった石と同じような石が転がり落ちてきた。


 その石は、同じように光ってはいたが、中には青い炎のようなものが揺らめいていた。


「な、なんなの……これ……」


 メイは、その石に触ろうとしたが、シキが石に触れたことによって崩れ落ちたことを思い出し、触るのを躊躇った。


 メイは、どうしていいのかわからなくなっていた。


 そして、来た道を走って逃げるように帰った。


 森を抜けて、いつもの屋敷が見えた。


「メイ、ヨシトは……?」


 何も知らないイッセイは、走ってきたメイにそう聞いた。メイはそれを無視して屋敷の中に駆け込んだ。


 真っ先に向かったのは、隅の方にある、埃をかぶったような部屋だった。


 その部屋に駆け込み、扉を勢いよく開け、中に駆け込んだ。


「……どうした? メイ」


 中には、一人の少年がいた。


 黒髪色白。見た目からもわかる虚弱体質。そんな少年だった。


「シキが……ヨシトが……」


 メイは泣きながらそう言った。


「何が……あった?」

「わかんないよ……なんか……」


 メイは、ここまでの事をその少年に話した。


「わかった。案内して」

「う、うん……」


 そしてメイと少年は、シキとヨシトが倒れている場所に向かった。




「えっ……」


 倒れた二人を見た少年は、肩で息をしながら思わずそう声を漏らした。



  ◇ ◇ ◇



 ――数か月後


「……ヨツバ」


 メイは部屋の扉の前から、中にいる少年――ヨツバにそう呼びかけた。


「何で避けるの? 一緒に、みんなで暮らそうって、約束したじゃん」


 何で部屋に入らないのかというのは、二つの理由があった。


 一つは、メイが、心の距離を感じているから。もう一つは、物理的に扉が開けられなかったから。


 どういう理由にしても、ヨツバが、他人を避けていることは明白だった。

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