【01】廃村の屋根の上に
527 名前:廃村の屋根の上に1/5 投稿日:2013/07/23(火)20:42 ID:※※※※※※※※
高校の頃の話。
ゴールデンウィークに地元の友だち三人(以下、A、B、Cとする)と実家近くにある河原へキャンプへ行ったのよ。
けっこうな穴場でさ。
渓流で飲み物とかスイカ冷やしたり、肉とか焼いてバーベキューしたり、すげー楽しかった。
ほんでさんざん遊んでたらあっというまに日が暮れそうになってたんだ。
そしたら、Aが近くにある廃村に探検に行こうとか言い出したの。
その廃村って俺らが中学生ぐらいのときに行方不明者の体の一部が発見された場所で、その事件はけっこうニュースにもなってた。
俺は行きたくなかったんだけどBとCはすげー乗り気になってんの。
けっきょく、流れで行く事になったんだ。
528 名前:廃村の屋根の上に2/5 投稿日:2013/07/23(火)20:44 ID:※※※※※※※※
その廃村について、ちょっと説明しておく。
場所はキャンプ場のある河原から渓流を挟んで対岸の山の中にある。
別によくある怖い話みたいに頭のおかしくなった男が住民を皆殺しにしたとか、そういうんじゃない。
普通に過疎化で人がいなくなっただけみたい。
ただ、付近の山で不自然な遭難や
だから、地元じゃ忌み地として有名で、誰も近寄りたがらない。
俺らも子供の頃から「渓流を渡って向こう側へ行くな」って事あるごとに大人たちに言われていた。
だから、俺がAたちにくらべて特別ビビりっていう訳ではないのは解ってもらえたと思う。
529 名前:廃村の屋根の上に3/5 投稿日:2013/07/23(火)20:47 ID:※※※※※※※※
そんな訳で、俺とA、B、Cの四人は、キャンプ場のあった河原から下流へ向かった。
そこに岩場があって、向こう岸に渡れるところがある。
俺たちはそこから渓流を渡って、廃村を目指した。
道はほとんど獣道で周囲はいかにも人の手が長年入っていない森って感じ。
ほんで、三十分くらい歩いてその村の端にようやく辿り着いた頃には、もう辺りは真っ暗だった。
最初は余裕を見せていたAとBとCも、すっかりと黙り込んでいた。
ただ俺も含めて全員が変な意地を張ってて、自分から「帰ろう」って言いづらい空気になっていた。
けっきょく、俺たちは懐中電灯を片手に村の中へと足を踏み入れる事になった。
530 名前:廃村の屋根の上に4/5 投稿日:2013/07/23(火)20:51 ID:※※※※※※※※
懐中電灯に浮かぶ廃墟は不気味だった。
けっこう形を残した家もあったけど、ぺしゃんこに潰れた家もあったりした。
そういう物陰から何かが飛び出して来そうで怖かった。
そんな中をしばらく歩くと、村の広場みたいなところについた。
空には月が浮いていて真夜中なのにやたらと明るかったのを覚えている。
そこで俺はスマホの画面を見た。
夜の八時だった。
流石にもういいんじゃないかと思って、Aたちに帰ろうと提案しようとした、そのときだった。
Cの奴が唐突に声をあげて右手を伸ばして前方を指差した。
「あれ、何だ?」
全員の目線が、その方向に集まる。
ちょうど、俺たちの正面にあった家の屋根の上に誰かが立っていた。
ぼろぼろの原始人みたいな格好してて、月を背負って逆光になってたから顔とかはよくわからなかったんだけど、強い視線を感じた。
何より怖かったのは、そいつ、たぶん笑っていたと思う。
見えなかったけど、雰囲気で何となくそれが伝わってきた。
正体はわからないけど絶対にまともじゃないモノだってピンときた。
見てはいけないものだって。
すっかりビビった俺たちは、凍りついて動けなくなってしまった。
目を逸らした途端、アイツが襲いかかって来そうで、すげー怖かった。
数分、いや十分以上は、その状態だったかもしれない。
そいつが唐突に屋根から俺たちのいる方向とは反対側にぴょんと飛び降りて姿を消した。
その瞬間、俺たちは金縛りが解けたみたいに悲鳴をあげて、来た道を引き返した。
二〇二〇年も八月に入り、夏休みとなった。
藤見女子高校では、一日から八月いっぱいが休みとなる。
他の学校よりも若干長めであるが、各教科の課題は例年よりも多く出された。
その為に生徒たちは一様に
因みに桜井梨沙は七月の中頃に行われたテストで、どうにか赤点ギリギリの成績を叩き出して補習を免れていた。
そんな訳で、八月二日。
桜井は茅野循と共に銀のミラジーノに乗り込み、その日の早朝、県北の山間部を福島方面へとひた走っていた。
もちろん、心霊スポット探訪である。
二人を乗せた車は人里から離れて、
「……それで、けっきょくどうなったの?」
「そのあと、語り部たち四人は夜の山中で道に迷うんだけど、このくだりは長い上に特に面白くもないから全カットするわ」
「ふうん、そなんだ」
桜井は助手席の茅野循から道すがら、二〇一三年にオカルト板のスレッドに投稿された『廃村の屋根の上に』という話の概要を聞かされていた。
「それで、けっきょく、四人がキャンプ場に辿り着いたのは明け方になっていた。彼らは、
そこで車は短いトンネルに差しかかり、一時的に話が中断される。
トンネルから出たあとで、茅野が再び口を開いた。
「……その廃村で見た事を両親に話すと“お前らあの村に行ったのか!?”とおきまりのパターンでキレられたらしいわ」
「様式美だねえ」
と、桜井が呆れた様子で笑う。
茅野も肩を
「どうも、両親たちが言うには、語り部たちが見たのは、昔からこの辺りに棲んでいる山の神様だという話よ。出会った者は二度と山を降りる事ができなくなるのだとか。語り部たちは運がよかったみたいね」
「山の神様か……面白そうだね」
桜井は戦闘者の目つきで言った。
「それで、その話の中に出てくる廃村というのが、今から私たちが向かう“
「下顎とはだいぶエキサイティングだね」
「一応、警察の調べでは月輪熊による被害という事になっているけれど、スレでは、その下顎の件も山の神様の仕業ではないかとされていたわ……」
「くまさんか、妖怪か、心霊か、はたまたキモいサイコ野郎か……」
と、桜井が言った直後、前方に谷の底へと下る別れ道が見えてきた。分岐の中央には矢印の形をした看板があり、そこには……。
『荒井沢キャンプ場』
と、あった。
茅野は、その看板を指差す。
「梨沙さん、そこ、道を下って
「このキャンプ場が、話の中に出てきたキャンプ場?」
「そうよ。そのキャンプ場の駐車場に車を停めましょう」
「らじゃー」
桜井がウィンカー出す。
こうして二人は、荒井沢キャンプ場へと到着した。
時刻は七時三十五分だった。
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