第10話

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 最初は私も訳が分からなかった。

 そもそも協力するとは言ったけど、太田君が誰かと付き合うなんて考えられなかった。

 堅物で、女の子とまともにお話しもできない、ただのヘタレな男の子だと思っていたから。


 だけど、そんな太田君が、たった3週間くらいの短い期間で、何人かの女の子と接していくうちに、どんどん成長していった。

 最初は私も応援していたし、素直に嬉しかった。

 高崎さんに告白されるまでは……


 高崎さんが、どんどん太田君に惹かれているのは端から見てもよく分かったわ。

 太田君は告白されるまで分かっていないようだったけど。


 そして目の前で高崎さんは告白をした。

 とても可愛らしくて、誰に対しても優しくて、太田君にはもったいないくらいのあの子が。


 一番最初に思ったことは「嫌だ」だったの。


 あの太田君が誰かの彼女になってしまったら、私は邪魔になる。

 いいえ、単純に太田君を取られたくなかったの。


 太田君は憶えているかしら?

 私が死ぬ前の4月。

 教室で私とお話ししたこと。

 私は今でもちゃんと覚えてる。


 あなたは教室で一人壁を作って、周りとあまり関わらずにいた。

 必死で自分を守るために殻に閉じこもっているように見えた。

 そんな姿が私と似ているなと感じて、放課後一人でいる太田君を見て、つい話しかけちゃったの。


 そしたら、壁を作っているんじゃなくて、自分の力で壁を壊そう、殻を破ろうって頑張って足掻いていることを知った。

 私なんかと違って、現状に抗おうとしていた。

 私も入学早々壁を作って、周りから敬遠されていたけど、太田君はたどたどしくも、ちゃんと私の話を聞いてくれた。


 それだけで嬉しかった。

 できればもっと……仲良くなりたいと思った。


 でも、そのあとすぐにトラックに轢かれて……


 そのあとは、なぜか成仏できずに魂だけこの世を彷徨い続けた。

 今のように身体はなかったけど。

 彷徨い続けながら色々なものを見たわ。私の死に涙してくれた母。

 生きていたときには味わえなかった高い高い空の世界。


 そして、私の机に供えてあったお花に、毎日水をやってくれていた太田君の姿。


 そのとき私は願ったの。



————まだこの世界にいたい。



 そしてまた気づいたら、今度は太田君の部屋にいた。

 他の人からは見えないけど、生きていた自分の姿で。

 そこからは太田君の知っている通りよ。


 あのときと同じように私を受け入れてくれて、一緒に成仏できる方法を必死になって探してくれた。

 太田君は、ちょっと足が速いことと勉強しか取り柄がないって言うけど、そんなの自分を卑下しているだけだわ。

 太田君は、不器用で、口下手で、ヘタレだけど、それすら可愛いと思えてしまうくらいとても素敵で優しい人。

 このたった3週間で、これでもかというくらいあなたの魅力に気付いたわ。


 だからこそ、



———一緒になりたかった。

———一緒に行事に参加したかった。

———一緒に勉強がしたかった。

———一たとえ大学が別々になったとしても、ずっとそばにいたかった。

———一恋人として、あなたの隣に立ちたかった。



 そんな叶うはずもない夢ばかり思い描いた。

 でも、その夢を誰かから否定されるのが怖かった。

 その夢が壊されるんじゃないかと思って、人の告白を邪魔して、最悪なことをしてしまった。


 死人に……人の恋路を邪魔する資格なんてないのに……


 ただ消えていくだけの存在だったのに……



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