第9話
パッと、意識が覚醒する。
ここは教室。手元には何も持っていない。
とりあえず一呼吸。
「どうして……」
震えている声。
その声の主の方を確認する。
「やっぱり《巻き戻し》をしていたのは前橋さんだったんだね」
「そんなことどうでもいいわ! どうして飛び降りなんてしたの? もしかしたら死んでいたのかもしれないのよ? ねぇ、どうして……」
「俺は死なないよ。骨折くらいはする可能性はあったけど。あのベランダの下、陸上部で選手がいないからって理由で、高跳び用のマットが放置されているんだ。だから落ちたとしても死ぬことはない。着地に失敗したらどうなってたか分からないけど」
「でも、なんでそんな……」
腰が抜けたように膝から崩れ落ちる前橋さん。
「俺はちょっと足が速いだけで勉強しかできない。実際の恋愛もしたことがない。でも、ここまでくれば、いくら俺でも分かる。分からないのは美少女ゲームの鈍感系主人公くらいなものだ」
「はぐらかさないでよ」
「ごめん、でも確信はなかった。だから前橋さんを試すようなことをしてしまった。重ねて謝るよ」
膝を床につけ、前橋さんと同じ目線の高さになる。
「太田君のそういうところ、ものすごく嫌いだわ」
「こんなことできるのは前橋さんだからだよ」
「くっ……。そういうところも嫌い」
プイッと頬を膨らませ、そっぽを向く無表情娘……いや、照れ屋娘。
「俺からも聞かせてほしい。どうして《巻き戻し》を?」
顔をこちらに向き直し、軽く一呼吸を挟む。
そして彼女の口が、ゆっくりと開かれた。
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