第5話


 7月7日、水曜日。勉強会3日目。


 世間は七夕であるが、試験勉強真っ只中の俺たちにとっては、カレンダーに記載してあるだけの文字列に過ぎない。

 楽しいイベントはないのだ。


 しかし、目の前にいるほんわか美少女は、とても楽しげに笑っている。


「はははっ! はぁ、面白かったぁ! 陽子と一緒に爆笑しちゃった。今思い出しても……くっ、ふふふっ」

「ぐ……笑いを供給できたようでなにより」


 それは、今日の体育の授業の時間まで遡る。

 男子の授業はサッカー、女子は高跳びの授業だった。


「体育着姿の女子って萌えるよな。いつもより薄着でよ。昔はブルマとかだったらしいぜ。最高だよな」という友助を無視して、ボールが来ないようにポジショニングに気を遣っていた。


 しかしながら、ボールが来てしまうことだってある。

 ボールから逃げてしまっては、クラスの連中の反感を買ってしまうし、先生からの評価もガタ落ちだ。

 少しでも授業に参加してますアピールをするために、飛んできたボールを華麗な胸トラップで受け止めようとした。


 だが、結果は頭にボールが思いっきり直撃してしまい、そのまま倒れ込んでしまうという失態を晒してしまったのだ。


「ごめんごめん。笑い過ぎちゃって。でも、たまたま陽子と男子の様子を見てて、太田君の方にボールが飛んでいったの。そしたら、無駄に足をバタバタさせて、アワアワしてて、最終的には頭にゴツーンって。はははっ。やばい、おもしろすぎる」

「えへへ~」


 苦笑いで返答……

 もう勘弁してくれい!


「でも太田君って運動が得意なんじゃないの? 伊勢崎先輩が教室に来たときだって、太田君を勧誘するためって聞いたよ?」


 あのときか……。今思い出すだけでも柔か……いや、大変だった。


「まぁ、そうなんだけど。でも俺は少し足が速いだけで、他の運動、特に球技は苦手なんだよ……」

「そうだったんだぁ。なんか勝手に思っちゃってごめんね。私もそうやって偏見持たれることがあるから分かるよ」


 高崎さんと俺とでは期待の大きさに雲泥の差がありますけどね。俺は陰でひっそり過ごしたいんです。


「その偏見を本物にするためにも、もうひと踏ん張りしよう」

「うん!」


 前橋さんは素直に俺の話に耳を傾け、どんどん吸収していっている。やっぱり根本のところは優秀な子なんだ。ただやり方に問題があったたけで。


 そのまま勉強会は順調に進んでいき、このまま何事もなく試験本番を迎えると思っていた。

 あの提案が来るまでは。

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