第6話


「えっ! 高崎さんの家で勉強会!?」

「うん♪ 私の家で勉強会!」


 本日は7月9日、金曜日。


 いよいよ試験本番まで残り3日となった。

 土日は学校が休みのため、外で勉強会をする必要があった。


 そして、今その会場の候補として、高崎さんの家を、高崎さん自ら提案してきたのだ。


「さすがに女の子の家だと……」

「あっ! 大丈夫だよ。お母さんとお父さんは、たまたま旅券をもらったから、夫婦水入らずで旅行に行くの! だから気を遣う必要はないよ♪」


 それは、余計にダメなやーつ!

 えっ、高崎さんはそれでいいの?

 自分の家で……男と……俺と……二人きり?


「行けばいいじゃない。どうせ女の子の家に行ったことないんでしょ?」


 前橋さん、それは本当のことだけど、目つぶしをしながらそんなことを言うのは止めていただきたい。


「土曜日だけでもいいから! 太田君のおかげで今の段階でもなんとかなりそうだけど、さすがに土日に一人で勉強だと、どこか甘えが出そうで……。だからお願したいな。ダメ……?」


 なんだよ、この美少女ゲーム的展開は! 画面の向こうの主人公たちはこんな緊張と期待とドキドキ感に襲われていたのか!

 こんなチャンス、二度と来ないかもしれない。

 ここは男らしく、ガツンと返事をしないと。


「ひゃい! よろんしゃす!」


 ……あぁなんで 情けないこと この上なし


 そんなむなしい短歌を詠んでいると、


「ありがとう! じゃあ明日10時にうちに来て! 場所はあとでメッセージで送っておくね! じゃあ私、寄りたいところあるから先に帰ります! また明日ね! 太田君!」


 ガランとした教室に、口を開けっ放しの俺と無表情な幽霊娘の二人だけが取り残される。


 どのくらい時間が経ったのかは分からないが、スマホにメッセージが届いたことを知らせるバイブ振動で我に返る。


 メッセージの相手は高崎さん。

 何かと連絡できないのは不便とのことで、連絡先を交換していた。

 内容は、高崎さんの住所と「お願いします」という可愛い猫のスタンプだ。


 女の子の家に行くのは初めてとはいえ、これは勉強会なんだ。

 高崎さんのご厚意で家にお邪魔させてもらうんだから、こっちも邪な心は捨てないと。

 俺は固く決心をしたが、その夜はなかなか寝付けることができなかった。

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