第2話

「あのあの、本当に、ありがとうございました!」


 買い物バッグの持ち主だった女の子が、赤べこのようにペコペコとお辞儀を繰り返す。

 妹と同じくらいの年齢かな。


 今日は気温も高めだったため、デニム生地のショートパンツと爽やかな白Tシャツに身を包んでいる。

 そこまで長くはないが、低めに結われた二つの髪は、少女の可愛らしさをより魅力的に引き立てている。

 少し照れくささもあり、顔はまじまじと見られないけど、その声は天真爛漫な元気のよさと可愛らしさを程よく掛け合わせたかのようだ。

 そしてどこか綺麗さも兼ね備えている。将来は美人さんになりそうだ。


 でも、この雰囲気、どこかで見たことがあるような?

 気のせいか。


「いや、えと……無事に取り返せてよかったよ」

「本当に助かりましたぁ! 一時はどうなるかと……。この中にはお母さんから預かった財布も入ってましたし、このご恩はいつか!」


 グイグイ身体をこちらに押し寄せてくる。

 ダメダメダメ! 今の俺すごく汗臭い。ダメ! 近づいたちゃダメ!


「いや、いいんだよ別に! あはは……」


 後ずさり、少女との距離を遠ざける。


「せめて名前だけでも!」


 遠ざけた距離は、先ほどよりもさらに近くなり、あと少しで身体がぶつかってしまいそうだ。

 いくら年下そうに見えても、女の子は女の子だ。

 でも妹と比べると胸のあたりのふくらみは段違いなくらい育っている。

 意識せずにはいられないよね。健全な男なら。


「な、名乗るほどでもないし……。あっ、そうだ、親から買い物を頼まれてたんだった! 急がないと! それじゃ!」


 棒読み気味になってしまったが、そんなこと気にする暇はない。


「あ、待ってください!」


 俺はその声にあえて反応せず、その場を後にした。

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