第2話 怪物《デュラハン》でも正義の味方を目指していいですか
涙で渡る血の大河
夢見て走る死の荒野
――『誰がために』 石ノ森正太郎
1
ステンドグラスから差し込む明かりが、玉座に座るものを照らしていた。
それをなんと表現したらよいか。触腕の塊、ミミズの群れが人の形を作ったもの、深海の生き物を寄せ集めて作ったオブジェ……いずれにしろ、それは薄汚れた黄色いローブをまとい、王冠を頭上に戴いた、巨大な化け物に違いなかった。
「なあ、王様――あんたの娘は、あんたを、心配しているんだぜ」
玉座の間は広かった。
砕けたガラスが、二つの化け物の姿を映している。1つは、玉座に座る黄衣の王。もう一つは玉座へ向かって歩く、甲冑を着込み、大剣を持つ、首のない騎士。
「あんたも、そうだったんだろ。だから……こんなことになったんだろ」
甲冑の中に肉体があるわけでもない。本性は揺らめく炎のような精神体であり、見ることも喋ることも、肉体を通しては行っていない。疑う余地のない化け物だ。
それが、今の俺だ。
「なあ、頼むよ。……人間に戻ることは、できないのか?」
俺と王様。二匹の化け物は、玉座の間で向き合った。
「……くふ あや ぐとん ぐとら ぐとん あい……」
王様は、どこから発声しているのか、なにを意図しているのか、すべてがわからない言葉を紡ぎ続けている。それが王様自身の意思なのか、あるいは、何かに唱えさせられているのか、それさえも分からない。
俺は鎧の金属音を鳴らして近づく。
王様は――玉座から立ち上がった。
「……なんのために、か」
知り合った淫魔に聞かれたのを思い出す。
戦って、勝ったところで感謝などされない。人間からは「化け物」と恐れられ、排除される。それなら、魔物の側に立てばいい。人間を殺し、精気を吸い取り、魔物たちと共にあればいい。その方が、ずっと賢い生き方だ。魔物として生まれたのだから。
魔物が魔物を殺すのは、あべこべだ。
「その通りだ。その通りなんだ。でも、俺にあるのは……」
大剣を構える。黄衣の王の触腕が迫る。
「正義か、死だ」
ステンドグラスから差し込む明かりを、大剣の刃がぎらりと返した。
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